第67話:神、魔族領の「豪邸(バグ)」に目を細める
絨毯による数日間の空の旅を終え、吾輩たちは
ついに魔族領の最奥へと辿り着いた。
空はどんよりとした紫色の雲に覆われ、
大地からは不吉な魔力が陽炎のように揺らめいている。
だが、ヴィータが胸を張って案内した場所は、
そんな殺伐とした光景とは無縁の豪華な館の前だった。
「さあ着いたよ! ここが最後の四天王、
ボクが最も信頼する女傑の城さ!
見てよアスタロ、この立派な構え。
これだけでも彼女の有能さが分かるだろう!」
ヴィータが誇らしげに指差す先には、魔族領の
荒野には似つかわしくない、白亜の壁と
美しい薔薇が咲き乱れる庭園を持つ屋敷があった。
だが、吾輩は鼻で笑い、黄金の眼で
その建物のログを厳しくスキャンした。
「フン。変態ではないと言っていたな、ヴィータ。
だが、これまでの経験上、貴様の言う
信頼ほど当てにならぬデータはない。
酒に溺れ、温泉にふやけ、放置プレイに耽る。
そんな奴らと同列の四天王なのだぞ。
どうせ中には、別のベクトルの異常者がいるはずだ」
「アスタロ様。同感です。この禍々しい土地に
これほど優雅な生活空間を構築している時点で、
精神構造の歪みは確定していると見て良いでしょう。
カイル様、念のためミスリル剣の鯉口を切って
おいてください。何が飛び出すか分かりません」
ルナリエが事務的に警告を発し、カイルは
引き攣った顔で剣の柄を握りしめた。
セレスは屋敷から漂う甘い香りに誘われ、
「今度はお菓子かなぁ」と呑気に喉を鳴らしている。
「失礼な! 彼女は本当に真面目なんだから!
ボクが別の世界から連れてきた時も、
一言も文句を言わずに職務に励んでくれたんだ。
さあ、扉を開けるよ。驚かないでよね!」
ヴィータが自信満々に、重厚な玄関の扉に手をかけた。
吾輩は、全知の回路の端っこで鳴り響く
不吉なアラートを無視することに決め、
最後の一人のバグ(性癖)を迎え撃つ覚悟を決めた。
吾輩は神である。
今日からはこの世界のルールであり、
生命神の信頼をバグフラグとして処理しつつ、
白亜の館に潜む、救いようのない女傑の正体を
暴きに行く、慎重な創造主である。




