第63話:神、生命の「新生(パッチ)」を強行する
四十二年もの時間を加速させ、大地の残留魔力を
完全に消滅させた。だが、眼下に広がるのは、
一草一木すら芽吹かぬ、静止した不毛の荒野だ。
駆け寄ってきたカイルたちが絶望に顔を歪める中、
吾輩はただ一人、不敵な笑みを浮かべていた。
「アスタロ様、失敗なんですか! これじゃあ
民が帰ってこれない! どうするんですか!」
「案ずるな、カイル。すべては吾輩の予想通りだ。
時間は進めたが、止まった生命の歯車を
動かすには、外からの強い入力が要る。
おい、ヴィータ。貴様の出番だ。来い」
吾輩は、呆然と立ち尽くすヴィータの額に
指先を添えた。セレスの時と同様、彼の魂に
施されていた人間化の封印を、一気に解き放つ。
黄金の光が荒野を照らし、ヴィータの体が
神々しい生命の奔流に包まれて浮かび上がった。
「ちょっとアスタロ! 何勝手に戻してるのさ!
ボクは今、お腹が空いててそれどころじゃないんだ!
神に戻るってことは、この広大な土地の責任を
全部ボクに押し付ける気だろ! ブラック労働だ!」
神に戻った男神ヴィータは、空中で手足をバタつかせ
猛抗議を始めた。だが、噴き出す生命の波動は
彼の意志に関わらず、死んだ大地へ注がれる。
「パッチ解除。生命神の権能、完全開放!
ヴィータ、文句を言う暇があるなら役目を果たせ。
この死んだ大地に、生命のログを書き込め!」
観念したヴィータが、その両腕を広げる。
次の瞬間、奇跡が起きた。彼の足元から、
爆発的な勢いで瑞々しい緑が広がっていったのだ。
一瞬で草原が芽吹き、巨木が空を突き刺す。
鳥が囀り、森の奥には野生の獣が姿を見せた。
生命神の真髄。それは存在しないものを
生み出す力。数分前まで死んでいた荒野は、
眩いばかりの原始の森へと完璧に再起動された。
だが、その輝きが収まると同時に、
ヴィータは力なく地面へと崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ。もう無理。アスタロ、君は
本当に鬼だよ。一国の生態系を丸ごと
再構築させるなんて、スタミナが切れて
指一本動かせないよ。ボク、もう寝るからね」
地面に這いつくばり、泥だらけの顔で愚痴をこぼす
その姿は、神格を戻してもなお、情けないままだ。
ルナリエが、再生した森の生命ログを確認し、
満足げにバインダーを一瞥した。
「アスタロ様。生態系の復元率、百パーセントを確認。
生命神の権能による強制上書き、大成功です。
これで獣人たちは、飢えに苦しむことなく、
豊かな森へと帰還できるでしょう」
吾輩は神である。
今日からはこの世界のルールであり、
時間加速と生命神の権能を組み合わせ、
死んだ大地に再び物語を流し込む、
最高に辣腕な創造主である。




