第57話:神、獣人の「貧食(エラー)」に目を疑う
コロシアムを後にした吾輩たちは、セレスが空腹で
あまりにうるさいため、調査の前に街の食堂へと
足を運ぶことにした。だが、運ばれてきた料理を
見た瞬間、一行の動きは石のように凍りついた。
「な……なんだ、これは。店主、吾輩は
石ころの煮込みを頼んだ覚えはないぞ。
この干からびた肉の切れ端と、枯れ果てた
雑草のような野菜。これでも食えと言うのか」
吾輩の目の前に置かれたのは、家畜の餌にすら
劣るような代物だった。さらにコップの水は
泥が混じって茶色く濁り、底には砂が沈んでいる。
カイルは顔を引き攣らせ、セレスは絶望の表情で
震える手で皿を見つめていた。
「店主! これ、本当に食べ物なの!?
お肉がカチカチで石みたいだよ!
お水だって、お外の泥水の方がまだマシだよ!
獣人の国って、もっと美味しいお肉があるんじゃ……」
セレスの悲鳴に近い抗議に対し、厨房から出てきた
痩せこけた獣人の店主は、力なく首を振った。
「贅沢を言わないでくれ。これでも、この街では
最高のご馳走なんだ。数年前から突然、
畑の作物は枯れ、川の水は濁り始めたんだ。
森の獲物もガリガリに痩せ細って消えちまった。
これでも、必死にかき集めた食料なんだよ」
店主の言葉に、吾輩は全知の回路を巡らせた。
住人たちは苦しんでいる。だが、抗う力すら
奪われているようだ。ルナリエが眼鏡を光らせ、
店主の細い腕を観察して冷徹に告げた。
「アスタロ様。推論がまとまりました。
四天王ガウルから漏れ出た不屈の魔力が、
この土地の生態系を根底から書き換えています。
植物も動物も、過酷な環境に耐えることだけに
リソースを割き、成長することを止めています」
「何だと? では、この不味い食事も濁った水も、
あやつの魔力が土地を枯らした結果なのか!」
「左様です。先ほどの付与によってガウル本人の
魔力放出は止まりましたが、大地に染み付いた
残留魔力はまだ色濃く残っています。
新たに作物が育つのは、まだずっと先の話でしょう」
ルナリエがバインダーをパチンと閉じ、吾輩に
解決を促す視線を送る。セレスは皿の上で
カチカチの肉を突き、今にも泣き出しそうだ。
吾輩は神である。
今日からはこの世界のルールであり、
四天王の魔力汚染が招いた深刻な食糧難に、
放置プレイの結果としての責任を痛感しつつ、
大地のデバッグを決意する創造主である。




