第56話:神、街の「魔力汚染」を懸念する
不滅のガウルへの付与を完了させた吾輩は、依然として
縄に縛られて荒い息を吐き続ける巨躯を冷ややかに見下ろした。
魔力の供給路は断ったが、問題はこの街の現状だ。
「よし。これでガウル本人からの追加のバグは止まった。
だがルナリエ、前のアルカナ領の例もある。
この獣人の国も徹底的に調査せねばならん。
吾輩が来るまで、この四天王の濃厚な魔力が
駄々漏れになっていたのだ。影響がないはずがない」
吾輩の言葉に、ルナリエは手早くバインダーの頁をめくり、
街全体に広がる残留魔力の数値を計測した。
「左様です。アスタロ様。四天王クラスの魔力が
これほどの長期間、無防備に放流されていたのです。
生態系や住民の精神構造に、何らかの変異を
引き起こしている可能性は極めて高いと言えます」
「ふぇぇ。またお仕事なの? アスタロ、
それより先にお肉食べに行こうよ! ここは
獣人の国なんだから、ジューシーな野生のお肉が
いっぱいあるはずだよ!」
セレスは既にデバッグよりも食欲に支配されている。
一方でカイルは、放置されたままのガウルを見て
あまりの不憫さに、目を逸らして呟いた。
「アスタロ様、本当に行くんですか?
あの方、まだあんなに嬉しそうに
床を転がってますけど。助けなくて
いいんですか、あの状態のまま」
「放っておけ。本人が究極の放置を望んだのだ。
望み通り、このコロシアムに捨て置く。
行くぞ。この街の野性の欠如の正体を、
管理者の眼で直接暴いてくれるわ!」
吾輩たちは、満足げに悶えるガウルを背に、
コロシアムの重厚な門を後にした。
背後からは、ああ、誰もいなくなった、
真昼の静寂、孤独、完全な放置、
たまらんぞ、という歓喜の絶叫が聞こえてくる。
吾輩は神である。
今日からはこの世界のルールであり、
変態の放置プレイを公式仕様として認めつつ、
漏れ出た魔力が街に刻んだ新たなバグを追い、
獣人の街へと踏み出す、多忙な創造主である。




