第51話:神、獣人の国へと「絨毯」を飛ばす
地下倉庫に広がる、割れた小瓶と残り湯の海。
元領主アルカナの絶叫が虚しく響く中、吾輩は
満足げに鼻歌を歌うセレスの前に立ち、再び
その額に指先を添えて神の回路を閉ざした。
「よし。デバッグ完了だ。セレス、ご苦労。
元の一般人パッチを再適用するぞ。
神格再封印。人間モード、起動だ!」
「ふぁぁ。なんだか、急に視界が狭くなった。
さっきまで世界中を不運にできそうな全能感が
あったのに、今はただお腹が空くだけだよ。
まあ、この不自由さが今は一番落ち着くね」
黄金の光が収まると、そこにはいつもの
食い意地の張った無害な少女が立っていた。
不運のオーラは霧散し、地下室の地鳴りも止まる。
「アスタロ様。アルカナ領の在庫は全滅を確認。
依存症の根源は論理的に遮断されました。
さて、ヴィータ様。次なるデバッグ対象である
四天王の座標を、正確に開示してください」
ルナリエが無表情にペンを走らせ、事務的に
促す。ヴィータは二日酔いの頭を抱えながら、
おずおずと北の地平線を指差して白状した。
「次はこの国を出てさ、隣の獣人の国に
拠点を構えてるはずだよ。あそこは
ここから歩いて行くと半年はかかる、
未開の大森林の奥にある国なんだけどね」
「半年ですか。あまりに非効率な行程ですね。
アスタロ様、リソースの最適化をお願いします」
「うむ。カイル、セレス、ヴィータ。全員乗れ。
例の時短パッチ、空飛ぶ絨毯を再展開するぞ!」
吾輩が懐から布を投げると、それは空中で
巨大な乗り物へと変貌した。半年かかる
旅路を数時間に圧縮する、神の反則移動だ。
絨毯は猛烈な勢いで上昇し、北へと滑り出した。
「きゃっほー! やっぱりこれ、楽しいね!
次はどんな美味しいものがあるのかな。
獣人の国って、お肉が凄そうだよね!」
はしゃぐセレスの横で、カイルが青い顔をして
吾輩の袖をひそかに引っ張った。
「アスタロ様、セレスさんを座らせてください。
それと、今度こそ認識阻害を忘れないで。
後ろのルナリエさんが、眼鏡の奥から
ものすごい無言の圧力を出してますから!」
吾輩は、背後に立つ秘書の氷点下の視線に
冷や汗を流しながら、ステルス権能を最大出力で
起動した。次なる戦場、獣人の国への最短デバッグだ。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
温泉街の闇を葬り去り、次なる強敵が待つ
獣人の森へと、音速で絨毯を滑らせる、
最高に仕事の早い創造主である。




