第50話:神、不運の「連鎖(コンボ)」で在庫を砕く
神格を取り戻したセレスの背後には、依然として
禍々しい黒い影が揺らめいている。爵位を失い、
ただの平民と化したアルカナは、泣きべそをかきながら、
震える足取りで地下倉庫への隠し階段を案内し始めた。
「こ、こちらです。……。神罰だ、きっと何かの呪いだ!
あ痛っ! ……。何もない平らな床で転ぶなんて!
ひぃっ、ネズミが私の鼻をかじっていったぁ!」
元領主が一段降りるたびに、階段が腐り落ち、
壁からは謎の釘が飛び出し、彼を執拗に攻撃する。
セレスが楽しげに鼻歌を歌いながら後を追うだけで、
世界そのものがアルカナを拒絶しているかのようだ。
「アスタロ様。セレス様の権能が、
完全にこの空間の確率論を破壊しています。
目的地に辿り着くまでに、元領主の
生命リソースが尽きないか心配ですね」
ルナリエが事務的に報告し、飛んできた瓦礫を
バインダーで叩き落とす。……。やがて、
吾輩たちは最深部にある重厚な扉の前に辿り着いた。
ここが、あの不衛生な霊薬の隠し倉庫だ。
「こ、ここです! ……。」
アルカナが震える手で鍵を開けようとした、その瞬間。
……。まるでタイミングを計ったかのように、
地底深くから「ゴゴゴ……」という不気味な地鳴りが
響き渡り、激しい地震が地下室を襲った。
「ぎゃぁぁぁ! 地震だぁ! ……。やめてくれ!
……。あああ! 棚が、棚が倒れるぅぅぅ!」
吾輩の全知ですら予測不能な、セレス印のピンポイント地震。
整然と並べられていた数千本の小瓶は、
棚ごと地面に叩きつけられ、凄まじい音を立てて
一斉に粉々に砕け散った。
「解析完了。……。全在庫、物理的な損壊を確認。
……。生命神の祝福による保護も、
……。容器が破壊されては意味をなしません。
……。これにて、不衛生な霊薬は全滅です」
床一面に広がる、四天王の残り湯の川。……。もはや
一滴も回収不可能な惨状に、アルカナは
白目を剥いて泡を吹き、その場に力なく崩れ落ちた。
「あはは! 見てアスタロ、全部割れちゃった!
……。なんだか、とってもスッキリしたよ!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
貧乏神の圧倒的な「不運の暴力」を目の当たりにし、
これほど楽なデバッグ(在庫処分)はないと、
複雑な心境でセレスを見つめる創造主である。




