第39話:神、時短のために「絨毯」を広げる
「断絶の砦」を後にした吾輩たちは、北にある
保養地「アルカナ領」へと続く荒野の入り口にいた。
ルナリエが事務用バインダーの頁をめくり、
眉間に深い皺を刻んで計算結果を告げる。
「アスタロ様。ここからアルカナ領までは、
馬車や船を乗り継いで、順調に進んだとしても
およそ一ヶ月はかかる計算になります。
……。兵站の確保も容易ではありません」
「一ヶ月だと? そんなに待てるか。
リソースの無駄遣いも甚だしい。任せろ。
吾輩が、世界の理を壊さぬ範囲で
最も迅速に旅をする方法を考えておいた」
吾輩は懐から、一見するとただの古びた
一枚の布を取り出した。カイルやセレスが
「雑巾?」と首を傾げる中、吾輩はそれに
神力を注ぎ込み、地面に広げて見せた。
「……。よし。これを『空飛ぶ絨毯』に
再定義した。物理法則の隙間を縫う
高度な移動バグだ。全員これに乗れ。
一気にアルカナの空まで跳んでやるぞ!」
「えぇっ!? 空、飛ぶんですか!?
……。あの、アスタロ様、これ、手すりも
シートベルトもないんですけど!」
カイルの悲鳴を無視し、吾輩が指を鳴らす。
すると、黄金の輝きを纏った絨毯は、
猛烈な加速と共に垂直に空へと飛び上がった。
雲を突き抜け、眼下にはミニチュアのような
大陸の景色が高速で流れていく。
「きゃっほー! すごーい!
おやつも食べ放題だし、最高だねぇ!」
風圧を物ともせず、魔力で保護された空間で
はしゃぐセレス。対照的に、ルナリエは
バインダーを盾のように顔の前に構え、
凍り付くような声音で吾輩に告げた。
「……。アスタロ様。飛んでいる最中は、
舌を噛む恐れがありますので黙っていますが。
……。無事に着いた後で、たっぷりと
お話があります。覚悟しておいてください」
「……。う、うむ。分かった。
……。おい、ヴィータ! 貴様も、
落ちぬようにしっかり布の端を掴んでおけよ!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
秘書の静かな怒りに冷や汗を流しながらも、
空からの景色を独り占めして、
次のデバッグ現場へと急ぐ創造主である。




