第38話:神、人間(ニート)を一人増やして砦を去る
翌朝。不気味な宴の跡地には、魔力を失い、ただ
ぼんやりと虚空を見つめる魔族たちが取り残されていた。
吾輩たちは身なりを整え、再び人類の最前線である
「断絶の砦」へと引き返す準備を終える。
「よし。生命神、貴様はここで好きなだけ
この抜け殻どもと酒でも飲んでいるがいい。
吾輩たちは砦へ戻り、残りのバグを消しに行く。
達者でな。いや、二度と会わぬのが互いのためか」
吾輩が冷たく背を向けた、その時だ。
二日酔いで顔を真っ青にした元神が、
ふらつく足取りで吾輩の服の裾を掴んだ。
「待ってよアスタロ! 俺もついていくよ!
神の力はなくなっちゃったけど、久しぶりに
あいつらにも会いたいし。何より、
一人でここに残されるのは寂しすぎるよぉ!」
「断る。貴様のような足手まとい、
リソースの無駄遣い以外の何物でもないわ!」
「いいじゃん、案内役くらいにはなるからさ。
あ、そうだ。人間になったんだから、
地上の名前を決めなきゃ。今日からは、
『ヴィータ』って名乗ることにするよ。よろしくね」
勝手に名前を決めてパーティーに潜り込もうとする
ヴィータ。ルナリエが深い溜息をつき、バインダーに
『不要不急の随行員一名追加』と書き加えた。
カイルは、また一人増えた変な知人に頭を抱えている。
数時間後。吾輩たちは、酒の抜けないヴィータと、
同じく二日酔いで不機嫌なセレスを引き連れ、
砦の裏門へと帰還した。門番たちは、
ピカピカの鎧で戻ってきた一行を見て、腰を抜かした。
「な、生きて戻ったのか!
おい、司令官殿! 例の勇者たちが
偵察兵を連れて帰還しました!」
「貴様ら、魔族と酒を飲んでいただと!
ええい、話にならん! だが、この軟弱な
男が四天王だという報告も信じられんわ」
バルカス司令官が指差したヴィータは、部屋の隅で
胃を押さえて蹲っている。
吾輩は、その光景を鼻で笑い飛ばした。
「そいつもはやただの人間だ。気にするな。
それより司令官。偵察の結果、不自然な停滞は消去した。
次は北の『アルカナ領』へ向かう。以上だ」
「アルカナだと? あそこは代々の領主が治める、
大陸随一の保養地として有名な場所だが……。
……。場所は分かるのか? 案内を出すか?」
「フッ。吾輩には不要な気遣いだ。場所は既に特定した。
行くぞカイル、ルナリエ、セレス。
あと、少しは吐き気の収まったヴィータもだ!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
身内の不祥事を一つ片付け、次なる巨大なバグ、
アルカナ領に潜む新たな四天王のデバッグへと
足早に歩を進める、最高に多忙な創造主である。




