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吾輩は神である。そして今、猛烈にキレている。  作者: じょん-ドゥ


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第3話:神、お互い様の精神に打たれる

「さあ、ここが私の家だよ。

 狭くて驚いたかね?」


 案内されたのは、村の中央にある、

 この辺りでは珍しい二階建ての民家だった。

 他の家が皆、質素な平屋なのを考えると、

 さすがは村長の家といったところか。


「いや、雨風が凌げれば十分だ。

 ……ん? 奥に誰かいるな」


 家の奥にある古いベッドには、

 一人の老女が静かに横たわっていた。


「ああ、私の妻だよ。数年前に

 足を怪我してから、立つことも

 歩くこともできなくなってしまってね。

 ……すまないね、こんな空気で」


 村長は寂しげに笑うと、

 鍋から温かいスープをよそってくれた。

 具材は驚くほど少ないが、

 使い込まれた木の器からは、

 滋味深い香りが立ち上っている。


「困った時はお互い様さ。

 二階はもう、私たち年寄りには

 上がるのが難儀で、ほったらかしだが。

 掃除をすれば寝泊まりくらいはできる。

 ……申し訳ないが、自分たちでやっておくれ」


「村長……。貴殿、なんて良い奴なんだ!

 全知全能の吾輩が、今すぐその、

『お互い様』の恩返しをしてやろう!」


 吾輩は感動のあまり、

 スープの匙を放り出して立ち上がった。

 そのまま、ベッドの老女へ向けて

 神々しい黄金の光を右手に宿す。


「案ずるな、老婆よ!

 吾輩がその足を、全盛期より頑丈な、

 なんなら音速で走れる脚に再生して――」


 バコンッ!!


「あだっ!? 今、音がしたぞ!?

 吾輩の頭の中で、物理的に

 何かが破砕される音がしたぞ!?」


 振り返れば、ルナリエが

 どこから取り出したのか、

 分厚い百科事典のような本で

 吾輩の後頭部をハタいていた。


「アスタロ様。……いい加減にしてください」


「な、なんだよ! 吾輩はただ、

 この慈悲深い老夫婦を救おうと……」


「奇跡の安売りは厳禁です。

 寝たきりの老人がいきなり光に包まれ、

 超音速で走り回るようになったら、

 それはもう奇跡ではなく怪奇現象です。

 村全体がパニックになりますよ」


「……あ。……そっか。

 いきなり全快は、逆に怖いか」


「当たり前です。

 思考回路のバグを直す魔法は

 ご自身にかけられないのですか?」


 ルナリエの冷たい視線が突き刺さる。

 村長は「おや、漫才かね?」と

 不思議そうに見ている。危ないところだった。


「わ、分かったよ。力は使わん。

 ……表向きはな」


 吾輩は咳払いを一つし、

 村長に見えないよう背中を向けた。

 そして、手のひらの中で

 『神の秘薬』をこっそり生成する。

 それは、飲めば不老不死……とまでは

 いかないが、数日かけてじっくりと

 細胞を活性化させる、最高級の薬だ。

 見た目は、ただの古びた小瓶である。


「村長。これを受け取れ。

 道端で拾った……えーと、

 凄腕の薬師が作った秘薬だ」


「おや、そんな貴重なものを?」


「ただの気休めだ。だが、

 毎日一滴ずつ、奥方に飲ませてやれ。

 二階を貸してくれる礼だ。

 ……お互い様、なんだろ?」


「……。ああ、ありがとうよ。

 大切に使わせてもらうよ」


 村長は深々と頭を下げた。

 その横で、ルナリエが「ふん」と

 鼻を鳴らす。


「まあ、その程度の隠蔽工作なら

 見逃してあげましょう。

 さあ、アスタロ様。

 さっさと二階の掃除を終わらせますよ。

 神様がほこりにまみれて

 くしゃみをする姿など、見たくありません」


「お、おう。分かってるよ……」


 こうして、下界での最初の夜が更けていく。

 吾輩は神である。

 そして、今日からはこの世界のルールであり――

 掃除用のはたきを持たされる、

 ただの労働者である

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