第36話:神、想定外の「魔王自動生成バグ」に激昂する
吾輩が指先を鳴らした瞬間、夜の帳を切り裂いて、
眩い黄金の光が世界全体を飲み込んだ。
痛みはない。物理的な破壊も、熱量すらもない。
ただ、世界の基幹システムが書き換わる
電子的な不協和音が、一度だけ響き渡った。
「終わったぞ。これで、この世界の魔物と
魔族のリソースは現時点で固定された。
二度と魔力は増えず、子をなすこともない。
ただ静かに、寿命を待つだけの器だ」
光が収まった後の宴会場には、異様な静寂が
支配していた。さっきまで大笑いしていた魔族たちの
瞳から生気が霧散し、彼らは立ち上がることすら忘れ、
ただ虚空を見つめるだけの死んだ魚のような目と化した。
「アスタロ様。近場にいた魔族たちの目が
完全に死んでいます。生命の揺らぎを、
無理やり静止させてしまった結果ですね。
……。ん? 何ですか、このエラーログは」
ルナリエが事務的に報告し、手元のバインダーを叩く。
吾輩の全知の眼にも、この世界の遠く離れた三地点で、
凄まじい反発が起きているのが見えた。
「おい、ルナリエ。おかしいぞ。
別々の場所にいる三体の強力な個体。
吾輩の去勢付与が、完全に弾かれている。
それから、魔王だ。魔王にも付与が通った
手応えが全くない。魔王は魔族ではないのか?」
吾輩の問いに、地面に縋りついていた生命神が、
気まずそうに目を逸らして白状し始めた。
「い、いやぁ。実はさ、俺が連れてきたみんな、
魔力量が凄すぎてさ。その溢れた魔力が
勝手に固まって、魔王が生まれちゃうんだよね。
自然発生するシステムエラーみたいなもんかな」
「貴様。神の分際で、魔王を自動生成に
したというのか! では、今の魔王を消しても、
また次の魔王が湧いてくるではないか!」
「いや大丈夫! 一体魔王が生まれたら、
それ以降は増えない仕様だから!
それに今のアスタロの付与で、魔力の放出は
抑えたでしょ? だから次の魔王は生まれないよ。
……。現魔王はそのまま残っちゃうけどさ」
生命神はさらに、三人の四天王が弾かれた理由も、
しどろもどろになりながら付け加えた。
「あとさ。四天王は強い方がいいかなと思って。
俺の権能で、神の干渉を受けないように
祝福を上書きしちゃったんだよね。
この祝福、俺が死なないと消えない設定なんだ。
あはは、ごめん!」
「……。そうか。貴様が死ねば、その四天王の
不快な祝福とやらは消えるのだな?
よし、ならば今すぐここで死ねぇぇぇ!!」
吾輩は激昂し、神罰の雷を右手に凝縮させ、
生命神の眉間に向かって全力で振り下ろした。
「ぎゃぁぁぁ! 待って、アスタロ!
暴力反対! 神様同士の殺し合いは
もっと規約違反だよぉぉぉ!」
カイルは、世界各地で強敵が目覚めた事実も知らず、
磨き上げた鎧を鏡にして、髪形を整えていた。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
身内のバカを抹殺してバグを根絶しようと、
本気で神殺しの業を振るい始める創造主である。




