第34話:神、生命神の「駄々」を物理的に却下する
黄金色の空をルナリエの冷徹な一喝が押しとどめ、
吾輩は不承不承、一括削除の構えを解いた。
だが、身内のやらかしたバグを放置するわけにはいかん。
吾輩は、足元に縋りつくむさくるしい男を蹴り飛ばした。
「ええい、放せ! 暑苦しいわ、この生命神め!
……。よし、分かった。一括削除は一旦保留してやる。
その代わり、貴様が勝手に連れてきた魔物と魔族、
その全員を今すぐ元の世界へ連れて帰れ! 撤収だ!」
吾輩の至極まっとうな命令に、生命神は
地面に這いつくばったまま、いい年をした男が
全力で首を振り、文字通り「駄々」をこね始めた。
「やだやだやだ! 帰りたくないよぉ、アスタロ!
あの子たちを俺の世界に連れて帰ろうとしたら、
『よそで拾ってきた魔物なんてダメ!』ってママに
あんなに怒られたんだよ!? 今さら戻ったら、
またママにこっぴどく叱られちゃうもん!」
「知るか! 貴様の家庭事情など世界に関係ないわ!
……。ルナリエ。こいつも含めて強制送還するための
ゲートを開け。まとめてリソースのゴミ箱へ叩き込め!」
「……。アスタロ様。残念ながら、生命神様が
自らの権能で『生命の定着(上書き)』を完了させて
います。……。彼自身の同意なしに無理やり引き剥がすと、
この森一帯の生命力が丸ごと消滅しかねません」
ルナリエが事務的に絶望的な報告を突きつける。
生命神はそれを聞くやいなや、地面に寝転んで
手足をバタつかせながら、さらに駄々をこねる。
「そうだよ! ここを離れたら俺が寂しくて死んじゃうよ!
あの子たちだって、ここで平和に暮らしているんだ!
追い出すなんて、生命神の俺が絶対に許さないぞぉ!」
「……。寂しいだと? ならば話は簡単だ。
貴様もその魔物共と一緒に、元の世界へ帰ればいい。
そうすれば寂しくもあるまい。今すぐ消えろ」
「そ、それは無理だよ! 戻ったらママに怒られるって
言ってるじゃん! 怒られない場所で、あの子たちと
楽しく暮らしたいんだよぉ! どこも悪くないだろぉ!」
「黙れ! 悪いのは管理領域を私物化した貴様だ!
これ以上この世界に余計な負荷をかけるな。
連れて帰らんと言うなら、力ずくで排除するのみだ!」
カイルは、神同士のあまりに大人げないやり取りを
完全にスルーし、新調した鎧に付いた小さな汚れを、
ハンカチで必死に拭いていた。
世界の滅亡より、白金の輝きの方が大事なようだ。
「えぇ……。アスタロ、そんなに殺生な……。
……。ルナリエちゃん! 何か良い方法ないの!?
ママに怒られずに済む、裏技みたいなやつさぁ!」
「……。生命神様。私にそのような権限も、
ましてや解決策などもございません。
……。速やかに出国手続きを済ませるのが、
事務処理上の最善手かと存じます」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
秘書にまで泣きつく生命神の情けなさに、
怒りを通り越して乾いた笑いが込み上げてくる、
心底疲れ果てた創造主である。




