第33話:神、四天王の「勧誘活動」に絶句する
黄金色に不気味な輝きを放ち始めた空を、ルナリエの
無慈悲な一撃と生命神の情けない泣き言が、辛うじて
押しとどめている。吾輩は忌々しげに指先を下ろすと、
目の前でジョッキを震わせている、この無責任極まる
「同業者」を、射抜くような視線でねじ伏せるように凝視した。
「……。待てよ。おい、生命神。貴様、よもや自分一人が
この世界に不法投棄をして逃げ込んだなどとは言うまいな?
四天王というポストは、魔族領においても極めて重要な
権限のはずだ。……。他の四天王も、まさか、
貴様と同じく他の世界の『神』なのか!?」
吾輩の脳裏に、さらなる神々の連鎖爆発がよぎる。
そんなことがあれば、もはやデバッグどころか、
宇宙そのものの初期化が必要になる。だが、生命神は
脂汗を流しながら、ぶんぶんと激しく首を横に振った。
「ち、違うよアスタロ! 他の四天王は神様じゃないんだ!
……。みんな、あっちの捨てられた世界に取り残されて、
行き場を失って途方に暮れていた、ただの魔物や魔族たちだよ。
仕事を紹介してほしいって、俺に相談しに来てさぁ」
「……。相談だと? 貴様はいつから、次元を超えた
ハローワークの職員になったのだ! ……。それで、まさか
その相談に乗って、この世界へ勝手に連れてきたのか!
そもそも、そんな余所者の魔族が、なぜ砦の人間どもと
仲良く宴会などしておるのだ! 訳を言え!」
「だって、職を失って泣いてたんだよ!? だから、その
部下たちも含めて全員、この世界に引っ越してきてもらった
んだ。彼らは戦いに疲れてたからさ、偵察に来てた人間に
『一緒に飲みませんか?』って、軽く声をかけたんだよ。
そしたら、あいつらも『お、いいっすね』って……」
吾輩は、あまりのバカバカしさと事態の深刻さに目眩を覚えた。
ルナリエが隣で、バインダーの紙が破れんばかりの勢いで、
『一括削除より先に、入国管理が必要』
と凄まじい筆圧のログを更新し、吾輩に無言の圧をかける。
「誘う方も誘う方だが、それで参加する人間も人間だな!
ここは最前線の砦だぞ! 緊張感の欠片もないのか!
……。貴様がやっているのは、神の権能を悪用した、
前代未聞の『神格付き人材派遣』だ! 世界の容量を
無視して、余所の失業者を移住させるなど言語道断だぞ!」
「えー、でも、みんな一生懸命飲んでるよ? こっちに来て、
新しい魔生を謳歌してるし。アスタロ、そんなに
怒らなくてもいいじゃん、みんな幸せなんだからさぁ」
「幸せなのは、この歪んだ宴の中にいる貴様らだけだ!
……。ええい、もういい! これ以上貴様の妄言を聞けば、
吾輩の神格まで汚れるわ! よし、分かったぞ。
消滅させるのは、もはや不法投棄された魔物だけではないな」
吾輩は、再び指先を天に向け、今度はさらに広範囲の
論理削除の術式を構築し始めた。
大気が激しく震え、雷鳴のような轟音が森に響き渡る。
「……。魔物も、そして貴様らが連れてきた魔族もだ。
まとめてこの世界のメモリから抹消してやるわ!
不純物が混ざりすぎた世界など、一度更地にするのが
唯一にして最速の最適化だ! 覚悟しろ!」
「待ってアスタロ! 落ち着いて! あの子たちには、
ちゃんとここで果たしている『役割』があるんだよ!
今消したら、この地域の生態系が完全に終わるんだ!」
生命神が吾輩の腰に泣きながら縋りつき、
さらにルナリエがバインダーの角で吾輩の喉元を制した。
「アスタロ様。論理削除は最終手段です。
感情に任せたデバッグは、新たな致命的欠陥を
生むだけだと何度申し上げれば理解されるのですか」
カイルは、世界滅亡を懸けた喧嘩を完全に聞き流し、
ミスリル剣の刀身に映る自分の顔を熱心に眺めていた。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
二人掛かりの猛制止を受け、渋々指を下ろしつつも、
魔族もろとも一括削除したい衝動を抑えるのに必死な、
最高に過激な創造主である。




