第32話:神、生命神の「家庭内不和」に絶句する
胸ぐらを掴まれたまま、四天王――もとい生命神は、
黄金のジョッキを片手に、視線を泳がせながら
その「ちょっとした事情」とやらを語り始めた。
「い、いやぁ、アスタロ。聞いてくれよ。
実はさ、他の『捨てられた世界』を覗いたら、
そこに残された魔物たちが、あまりに不憫で……。
放っておけなくて、俺のいた世界に連れて帰ろうと
思ったんだ。……。俺、生命の最高神だしさ?」
「……。ふむ。そこまでは神としての慈悲と言えなくも
ないな。だが、なぜ貴様がこの世界で、
魔族の四天王などに収まって宴会をしておるのだ!」
吾輩がさらに揺さぶると、生命神は泣きそうな顔で、
さらに衝撃の事実を口にした。
「連れて帰ろうとしたらさ……『ママ』が
『よそで拾ってきた魔物なんて、うちでは飼えません!』
って、猛反対してさぁ……。……。ダメだって
言うんだもん、うちのママが……」
「……。貴様、一世界の最高神の分際で、
まだ母親に頭が上がらんのか! ……。いや、
そこはどうでもいい! 却下されたなら、
なぜ元の世界に戻してやらなかったのだ!」
「だって、可哀想じゃん! だから、しょうがないから
この世界に連れてきて、居場所を作ってあげたんだ。
ここなら戦わなくても、俺の力で死なないように
してあげられるし。……。名案だと思ったんだけどな」
吾輩は、あまりのバカバカしさに掴んでいた手を
思わず離した。ルナリエが隣で、バインダーに
『神としての自覚欠如(深刻なバグ)』と書き殴っている。
カイルは遠くの空を見つめ、一切この会話に
加わろうとせず、仏のような顔でスルーしていた。
「名案なわけあるか、この大バカ者!
貴様がやっているのは、ただの不法投棄と
リソースの私物化だ! ママに叱られたからと、
隣の庭に勝手にペットを放すような真似をするな!」
「えー、だって、あの子たち本当に可愛いんだよぉ。
ちょっと増えすぎちゃったけど、みんな仲良しだしさ。
アスタロも、見れば絶対に癒やされるって!」
「黙れ! 癒やしなど求めておらんわ!
……。ええい、もういい! 話を聞くのも疲れたわ!
こうなれば吾輩が今ここで、神の権能を使い、
この世界の魔物を根こそぎ消滅させてやる!」
吾輩は指先を天に掲げ、一括削除の
術式を展開し始めた。空が黄金色に染まり、
世界の理が激しく震え始める。
「や、やめてよアスタロ! あの子たちに罪はないよ!
消しちゃうなんて、生命神の俺が許さないぞぉ!」
「アスタロ様、落ち着きなさい!
一括削除など行えば、世界の因果関係が崩壊し、
取り返しのつかないクラッシュを引き起こします!」
生命神が吾輩の足に縋りつき、ルナリエが
鉄拳並みの速さでバインダーを吾輩の腕に叩きつける。
「放せ! 不法投棄されたバグどもを一掃して
何が悪い! これが一番確実なデバッグだ!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
身内の不始末への怒りが頂点に達し、
世界そのものを更地にしようと暴走し始める、
極端すぎる創造主である。




