第25話:神、金貨八百枚を武器屋でぶち撒ける
昨夜、宿で最高の食事とふかふかのベッドを享受した
吾輩たちは、泥を落として身なりを整え、最前線の街で
一番の店構えを誇る「鉄の城」という武器屋の前にいた。
一二〇〇枚の金貨は、吾輩が権能の一部である
『空間収納』に直接放り込んで管理している。
「カイル、見ろ。この並び立つ名剣の数々を!
今日こそ、その折れそうななまくら剣を卒業し、
勇者に相応しい至高の一振りを手に入れるのだ。
全知全能の吾輩が、最高の『調整』を
施すに足る土台を選んでやるからな!」
「昨日はお肉、今日はお買い物……。アスタロ様、
僕、なんだか緊張して手が震えてきました……。
でも、今度の剣こそは、ちゃんと『切れる』やつを
選んでくださいね? 絶対ですよ……?」
カイルは期待と不安を混ぜた顔で、店内の棚に並ぶ
一本数枚の金貨がする名剣たちを眺めている。
一方、セレスは店に入るなり、一番高い
宝石入りの杖を勝手に手に取って、魔法を込める振りをしていた。
「あ、これいいじゃん! アスタロ、私の杖も
これに新調してよ。前のやつ、オークを焼く時に
ちょっと焦げちゃったしさぁ! ね、いいでしょ?」
「黙れセレス。貴様の杖より、まずは勇者の武装だ。
……。おい、店主! この店で一番『切れる』剣、
そして一番『頑丈な』鎧を持ってこい。
金ならいくらでもある。最高級を出せ!」
吾輩がカウンターを叩くと、奥から
頑固そうなドワーフの親父が、鼻眼鏡を揺らして現れた。
彼は身綺麗な吾輩たちの姿を一瞥すると、
吾輩が虚空から金貨の詰まった袋を
カウンターに無造作に召喚した瞬間、態度を一変させた。
「……。ほう。
金さえ払うってんなら、客の正体なんてどうでもいい。
うちで扱っている最高級の業物を出してやる」
親父が奥の金庫から恭しく取り出したのは、
蒼い輝きを放つミスリル合金の剣と、
白金の装飾が施された全身鎧だった。
「……。アスタロ様。これらはこの世界の
物理的な限界に近い純度で作られています」
「フッ。これほどの素材なら申し分ない。
これなら吾輩が手を加えても、その辺のなまくらとは
出来栄えが違ってくるはずだ。
ようやく勇者の装備らしくなってくるではないか!」
吾輩は店主が差し出したミスリル剣を手に取った。
吸い付くような革のグリップ、完璧な重心バランス。
そして何より、触れるだけで指が切れそうな鋭い刃。
これこそが、カイルが求めていた「本物の剣」だ。
「よし、親父! この剣と鎧、一式もらうぞ!
それからセレスのその高い杖も、まとめて計算しろ!」
「えっ! マジで!? やったぁ!
アスタロってば、たまには太っ腹なところあるじゃん!
やっぱり持つべきものは、話のわかる金主だよ!」
さっきまでブーブー文句を言っていたセレスが、
新しい杖を抱きしめて、現金な笑みを吾輩に向けてきた。
……。まったく、扱いの安い貧乏神よ。
「ま、毎度あり! ……。合計で、金貨八百枚だ!」
吾輩はカウンターに出した袋から、金貨の山を
正確に八百枚分だけ、ジャラジャラと店主の前に差し出した。
圧倒的な黄金の輝きを前に、ドワーフの店主はただ絶句している。
「……。う、うわぁぁ! ピカピカだ! 僕、こんなの
着ていいんですか!? これ、すごく切れますよ!
……。あの、アスタロ様、これ、もう十分すごいですから!
絶対、絶対に変なことしないでくださいね!?」
カイルの切実な不安を無視し、吾輩は
金貨八百枚を飲み込んだミスリル剣を高く掲げた。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
自ら空間から金をぶち撒けて勇者をフル装備に改造し、
さらなる「最強の不壊」を施す準備を始めた創造主である。




