第24話:神、素材の山を金貨に変えて「飯」に咆える
ガタゴトと揺れる馬車の横で、血と泥にまみれた勇者が
全力疾走しながら鉄屑を振り回す。そんな地獄のような
光景が六日間続き、吾輩たちはようやく目的地である
最前線の街へと辿り着いた。
「……はぁ、はぁ、はぁ。……し、死ぬ。
馬車って、乗って移動するための乗り物ですよね?
なんで僕だけ、六日間ずっと馬車と並走しながら
魔物を撲殺し続けなきゃいけなかったんですか……!」
カイルは街の門を潜った瞬間に膝をつき、
なまくら剣を杖にして、死に体で地面に這いつくばった。
馬車の屋根には、道中で狩りまくった魔物の角や牙が、
溢れんばかりに積み上げられ、車輪が悲鳴を上げている。
「何を言うかカイル! 見ろ、お前のその引き締まった
筋肉を! 連戦のおかげでレベルも上がり、
なまくら剣の振りにも迷いがなくなったではないか!
これぞ全知全能の吾輩が考えた、移動式特訓メニューだ!」
「特訓っていうか、ただの強制労働ですよぉ……。
……あ、アスタロ様。お腹が空きすぎて、
もう一歩も……。……一ミリも動けません……」
そう。吾輩が欲を出して魔物を呼び寄せすぎたせいで、
戦闘に時間を取られ、到着が予定より大幅に遅れたのだ。
六日分の食料はとうに底をつき、今朝からは
セレスが隠し持っていたシケた干し肉を四人で奪い合い、
凌ぐという、極限状態の行軍だった。
「アスタロ様。空腹のあまりセレスさんが
馬の尻尾を齧ろうとして御者に怒られました。
……。四人の胃袋が限界です。早くギルドへ」
ルナリエが事務的に告げ、屋根の上の荷物を指差す。
吾輩たちは、崩れ落ちそうな素材の山を抱え、
最前線の街のギルドへと足を踏み入れた。
「おい、受付! これをすべて査定しろ!
あまりの量に腰を抜かすなよ、全知全能の収穫だ!」
ドサドサッ!! とカウンターにぶち撒けられた、
数百本にも及ぶ角や牙の山。
ギルド内が静まり返り、受付嬢が絶句して固まっている。
「こ、これを……この四人で……?
……。わかりました。すぐに査定員を総動員します。
少々お時間をいただきますが、よろしいですね?」
ギルドの裏側が蜂の巣をつついたような大騒ぎになり、
十人がかりで数時間がかりの計算が始まった。
吾輩たちがカウンターを齧りそうな顔で待っていると、
ようやく重々しく査定結果が告げられた。
「……お待たせいたしました。報奨金の合計は――
金貨千二百枚です。……。これほどの金額を
一度に支払うのは、開所以来初めてのことですよ」
金貨、千二百枚。
カイル一人が六日間、馬車と同じ速度で走り続け、
出会う魔物を片っ端から撲殺し続けた結果が、
地方領主の年収にも匹敵する巨額の富となって返ってきた。
「せ、千二百枚……! アスタロ様!
これならお肉が、山のように食べられますね!?」
手渡されたのは、ずっしりと重い金貨の入った特大の袋。
カイルはそれを受け取るなり、隣の酒場へと
這うような速さで突撃していった。
「お、お肉! 一番高いお肉を! バケツいっぱいに!
あと、お野菜も! 全部、全部持ってきてぇぇ!」
「私もお酒! 一番高いワインを樽で!
アスタロの奢りだもんねぇ、ぷはぁーっ!!」
運ばれてきたのは、猛獣の肉を贅沢に煮込んだ
濃厚なシチューに、焼きたてのパン。
吾輩たちは、もはや会話をすることすら忘れ、
四人揃って獣のように皿にかじりついた。
「う、美味い……。生きてて……本当に……。
……アスタロ様、これ、お代わりいいですか!?」
「当たり前だ! 金なら腐るほどある!
食え! 食って体力を戻せ!
明日はその金で、最高級の装備を買い揃えるぞ!」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
四人の胃袋を満たした「血と汗の結晶」を手に、
腹を膨らませて高笑いする、創造主である。




