第21話:神、金貨三枚を求めて宿場町へ急ぐ
巨大な猪との死闘――というか、凄惨な「叩き出し」が
終わる頃、草原には静寂が戻っていた。
カイルは泥と脂にまみれ、なまくら剣を杖代わりにして、
生まれたての小鹿のように膝を震わせている。
「……。やった。……やりましたよ、アスタロ様。
見てください、この立派な牙を。
これさえあれば、僕たちの胃袋は救われる……!」
「うむ。よくやったカイル。
なまくら剣の『正しい使い方(物理)』を、
ようやく理解し始めたようだな」
吾輩は満足げに頷き、ルナリエに合図を送った。
彼女は手際よく、猪の巨大な牙を根元から回収し、
重さを量るように手の中で転がした。
「……アスタロ様。この重量なら、
掲示板の通り金貨三枚は硬いでしょう。
幸い、この街道をさらに北へ進めば、
砦の手前にある『宿場町』に辿り着きます」
「……。そうだな。王都を離れ、
いよいよ本格的なデバッグの旅の始まりだ。
この牙を換金し、今夜こそは
文化的な食事とベッドを確保するぞ!」
吾輩の宣言に、カイルが「お肉……お肉……」と
うわ言のように呟きながら、重い足取りで歩き出す。
その後ろでは、人間にされたセレスが
欠伸をしながら、しれっと先頭を歩いていた。
「あー、この辺の道なら任せなよ。
少し先に、馬車が通る脇道があるから。
そこを通れば、近道になるよ!」
「ほう。……。
前代勇者と旅をしていただけのことはあるな。
お前、案外と道に詳しいではないか」
吾輩が感心して声をかけると、セレスは
「当然でしょ」とばかりに鼻を鳴らした。
「そりゃあね。前代勇者をあちこち
使い走りにさせていたからね。
あいつにお酒を買いに行かせる時に、
少しでも早く戻ってこさせるための
ショートカットコースは全部熟知してるよ!」
「……。お前、勇者をパシリにしていた経験を
ここまで堂々と自慢できるとはな……」
ルナリエが隣で「ある意味、徹底していますね」と、
蔑みの目を深めている。
「アスタロ様。彼女の不届きな知識はともかく、
今はカイル様が限界です。
一刻も早く、金貨三枚を換金しましょう」
「…………。そうだな。ルナリエ、
お前の言う通りだ。今は肉が先決だ」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
元同僚の「勇者をアゴで使った記憶」に助けられつつも、
空腹の限界にいる現勇者のために、
歩みを早めた創造主である。




