第20話:神、高額報酬と「肉」のために勇者を走らせる
翌朝。吾輩たちは銀貨五枚という屈辱的な収益を胸に、
王都の北門へと向かった。目指すは「断絶の砦」。
そこには、より強力な「高額報酬」の魔物が蠢いている。
「いいか、カイル。砦の近くの『ギガントボア』なら、
ギルドの報奨金は金貨三枚!
一撃で昨日の倍以上の稼ぎになるのだぞ!」
「金貨三枚……! それだけあれば、今日こそは
お肉が乗った温かいスープが飲めますか!?」
カイルが飢えた獣のような目で吾輩に詰め寄る。
その時、街道の先、深い藪をかき分けて、
巨大な猪――「ギガントボア」が姿を現した。
「ひぃぃ! デカい! あんなの、僕の剣じゃ折れちゃう!」
「案ずるなカイル! 吾輩が『不壊』の理を刻んだのだぞ!
折れるはずがないだろう! さあ、金貨三枚を思い出せ!」
「……折れない、折れないんだもんね!?
肉入りスープのために、叩き潰してやりますよぉぉ!!」
カイルが叫びながら突進するが、相手は重戦車。
正面からまともにぶつかれば、吹き飛ぶのはカイルだ。
だが、その瞬間。カイルは咄嗟に剣を逆手に持ち、
地面へと全力で突き立てた!
――ズガァァァァンッ!!
不壊の剣は地面に深く刺さり、強固な支柱と化した。
猪の突進がその「杭」に激突し、
凄まじい衝撃と共に巨体が前のめりにひっくり返る!
「ほう。剣を盾にするのではなく、地面に固定して
突進力を逆に利用したか。……。感心だカイル。
その柔軟な発想は想定外だったぞ!」
吾輩が褒め称えている横で、まだ欠伸をしている女が一人。
「おいセレス! 勇者が体を張っているのだ、働け!」
「えー、やだやだ。あ、カイル君、がんばえー」
「た、助けてくださいぃぃ! 押し潰されて限界ですぅぅ!」
カイルが絶叫する。……。仕方あるまい。
吾輩はセレスの襟首を掴んだ。
「セレス。今すぐ魔法を撃て。さもなくば、
お前の母親へ位置情報を送信するぞ」
「……っ!? わかったよ! やればいいんでしょ!
もー、人間になっちゃって魔力がスカスカなのに!」
セレスが指先を向けた。人間に落とされた彼女の魔法は、
「ポシュッ」という情けない音と共に放たれた。
だが、その小さな光弾は、猪の目に直撃して視界を奪う!
魔物が苦悶の声を上げ、わずかに力が緩んだ。
「……今だ、カイル! トドメを刺せ!」
「う、うわぁぁぁぁ! 食らえぇぇぇ!!」
隙を突いて抜け出したカイルが、剣を地面から抜き、
ひっくり返った猪の眉間へ、鉄の塊を振り下ろした!
――ガキィィィン!!
「……あ。……死なない。全然、死なないですよぉ!」
そうなのだ。なまくら剣は斬れない。
一撃では、猪の分厚い頭蓋骨を砕くには至らない。
「何をボヤボヤしている! 叩け! 叩き続けろ!
一発でダメなら、百発叩き込めばいいだろう!」
「鬼だ! アスタロ様は鬼だぁぁ!!
うりゃぁぁぁ! 死ねぇぇ! 死んでスープになれぇぇ!」
――ゴンッ! ボゴォッ! ドムッ!!
カイルが半泣きで、何度も、何度も、何度も……。
鈍い音を草原に響かせながら、ひたすら剣で殴り続ける。
五分以上続いたその「作業」の末、ようやく猪は沈黙した。
「やったぁ……。金貨三枚……。……。
アスタロ様、もう僕、一歩も動けません……」
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
勇者の「執念の連打」に満足しつつも、
その光景の惨さに目を逸らした、創造主である。




