第19話:神、世界の「不法投棄」を解析する
王都の薄暗い安宿。その一室で、吾輩たちは今日一日の
労働(撲殺)の成果を前に絶句していた。
テーブルに並んだのは、たったの銀貨五枚。
あの凄惨な草原の光景と、カイルの筋肉痛の代価がこれだ。
「……信じられん。あんなに袋いっぱいに角を詰めたのに。
これでは、今日もこのボロ宿の雑魚寝代で消えるぞ!
もっと、こう、強い魔物を獲ってこねば、
高額報酬は望めんのか!? これでは破産だ!」
「アスタロ様。より強力な魔物を狩れば報酬は増えますが、
……。それより、先ほど回収した魔物の残骸を
解析した結果、看過できない事実が判明しました」
ルナリエが、事務用バインダーから一枚の
奇妙な透かしの入った羊皮紙を取り出した。
そこには、この世界に勝手に湧き出している
魔物たちの「不自然な構造図」がびっしりと記されている。
「……なんだ、この歪な構造は。
吾輩が管理しているこの世界の生命系統図とは、
似ても似つかぬ不気味な形ではないか」
「ええ。ここがこの世界の『真のバグ』です。
……聞いてください。この魔物たちを形作っている
リソースは、この世界の物ではありません」
ルナリエの声が、夜の静寂に鋭く響く。
セレスがジョッキを置き、カイルが震えながら聞き入る。
「本来、この世界の生命は大気中のマナが
巡り、形を成すもの。しかし、今の魔物たちの核には、
外部から流入した『廃棄物』が埋め込まれています。
たとえるなら、 誰かが勝手に『余所の世界のゴミ』を投げ込み、
それを無理やり継ぎ接ぎして動かしているような状態です」
「……。外部からの流入だと?
神界以外のどこからそんなゴミが入り込む!」
「分かりません。ですが、この不自然な魔物たちは
倒しても良質なマナに戻らず、世界を汚染し続けます。
人間には倒すべき脅威でも、世界にとっては、
存在しないはずの『毒』を流し込まれているのです」
ルナリエの報告に、吾輩は背筋が凍るのを感じた。
魔王が三日で復活するのも、この「ゴミの投棄」が原因か。
すると、横でつまみを食っていたセレスがポツリと漏らした。
「あー、それね。魔族四天王のあいつのせいだよ。
あいつ、いっつも変なものばかり集めてくるから……。
あ。……あ、やべ。これ、内緒だった気がする」
「…………。おい、セレス。今、なんと言った?」
「え? な、何も言ってないよ!
今の独り言! 空耳! 酒のせい!」
セレスが顔を真っ赤にしてジョッキで顔を隠すが、遅い。
吾輩は、逃げようとする彼女の首根っこを掴み上げた。
「……白状しろ。なぜ前代勇者の仲間にいたお前が、
四天王の仕業だと断定できる?
その犯人とやらは、今どこにいる!」
「うぅ……。魔族領と王国の境にある『断絶の砦』だよ!
あそこに引きこもって、ずっと何かやってるんだよ!
あーあ、喋っちゃった。私の平穏な隠居生活がぁ……」
犯人の居場所は分かった。
吾輩は神である。
そして、今日からはこの世界のルールであり――
庭を汚している犯人を特定するため、
まずは砦へ殴り込むことを決めた、激怒中の創造主である。




