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まるで太陽のような貴方

学園の裏の雑木林は静かだった。

誰も来ない場所、誰も私を見ない場所。

ここでなら私は素の自分に戻って感情を出せるはずだった…。

でも今は何も気持ちが湧き上がってこない…。


”正しくあり続けなければならない”

そんな強迫観念に襲われはじめたのはいつだっただろうか?答えは決まっていた。


私は殿下と同い年に筆頭公爵家の令嬢として生まれた。

生まれた瞬間に婚約者であることは半ば確約されていた。

私が最有力候補であったからだった。


だから、私は完璧でいなければならなかった。

公爵家の令嬢として、次期王子妃候補として、両親も私に愛情を持って厳しく接していた。


時は流れ、6歳の頃に私が殿下の婚約者に内定した。

初めて出会ったあの日のことを今でも覚えている。

面白くもない、私のつまらない話に殿下は笑ってくれたこと。そして、


「一緒に国を支えられる存在になろう」


そう言って、私の手を取って、笑いかけてくれたこと。

触った手は溶けそうなくらい温かくて、

その笑顔を見て太陽のような人だと思った。

私はこの人のためなら、何にだってなれると思った。


でもいつからだろう、殿下の笑顔が見れなくなったのは。

彼は完璧な王子として微笑みを浮かべるようになって。


だから───私も完璧でいなければならないと思った。

彼の隣に立ち続けるには「正しく」居続けるのが自分の役割だと思い演じ続けた。

そのうち、それが本当の私になっていった。


私の厳しさに人が離れていく事も多くあった。

……自分が間違ってるのかもしれない、そんな風に思った事もあるけれど、

殿下だけは変わらず優しく微笑んで傍に居てくれた。

微笑んで、私が婚約者で”助かる”と変わらず伝えてくれる。それが心の支えだった。


そんな私たちの前にアリシア嬢は現れた。

高い能力のため学園に入学した平民の女生徒。

ままならぬ立場に翻弄される大変さは分かっているつもりだったので──同情もしていた。

そんな彼女はまるで風のように学園の空気を変えていった。

彼女が微笑めば周囲も喜び、悲しめば周囲にも悲しみが伝導する。

私にはそんな才能はなかったので憧れもした


───言葉や態度には出せなかったけれど。


そんなアリシア嬢は殿下に似ていた。

似たような考え、似たような行動…だから心が苦しくて。

あの日も、殿下がアリシア嬢に優しい人と言って笑っていた。


そんな顔──はじめて見た。

見た事のない顔だった。

何故か涙が止まらなくて、悔しかった。


アリシア嬢が殿下の執務室にいると聞いた時、

殿下が好きだと言っていた花の紅茶を持っていった。

扉越しに聞こえたふたりの会話から、殿下は本当は果実水が好きだったことを知った。


アリシア嬢が転んだあの日。

私は殿下を思わず庇ってしまった。

彼女に手を差し伸べる殿下を見て思い出す。

10年前、彼が私に向けた手のぬくもりを。


「一緒に国を支えられる存在になろう」


幼い彼が言ったその言葉を、私は今も宝物のように持っていた。


でも、私は本当に隣に立てていたのだろうか。

思いは変わらずここにあるのに、殿下の心が何も見えない。


分かってる。

殿下の優しさも愛も個人に分け与えられる物ではないのだと。

私だけのものではないのだと。




でも、アリシア嬢に向けるあの目は公平な殿下の目ではなかった…。

そう、たぶん、殿下とアリシア嬢は似ているのだ。

私には分からないけれど、たぶん在り方が。

彼女なら殿下の心に触れることができるのだろう。

私では殿下の心には届かないことに薄々気づいている。

気づいているが、どうしたら良いのか分からない。


愛されてないことが辛いのではない。

私の10年が、信じていた正しさが殿下の心を支えられていなかった事実が悲しい。


太陽に手を伸ばすには、私は少し冷たくなり過ぎたのかもしれない。

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