22窮鼠
赤い光が晴れると、おばあさんの手には変わった白い杖がありました。 先端には二対の翼を模した装飾が施され、翼の根元には赤い宝石が埋め込まれていました。
「これは……」
「ばあさん、それは?」
用途が謎の杖……そのはずなのに、おばあさんはその杖の使い方が理解できました。
「マジカルトランス!」
「「「「!?」」」」
おばあさんが杖をかかげ、叫ぶとおばあさんの全身が眩い光に包まれました。
おばあさんの着ていた衣服は光の粒子となって消え、光の粒子は新たな衣服となっておばあさんを包みます。
着物とは全く異なる作りの服です。フワフワな雲のような素材に、ひらひらと羽が舞うような装飾。下の裾は膝上まで短くなっています。
そして何より、一番の変化はおばあさんの外見でした。 肌から一切のシワが消え、痩せ細った身体は筋肉の引き締まった美しい身体に変貌しました。そして、真っ白な髪は淡い桜色に。
「ばあさんが若返ったぁあ!?」
「ぶっ!?お、おばあさま!その格好はいささかはしたないのではないでしょうか!?」
「あらあら。今のワタシはおばあさんではありませんよ?」
おばあさん改め、お姉さんは人差し指を口に当て、いたずらっぽく笑うのでした。
「ぶほっ!べ、べっぴんさんじゃぁ……!」
おじいさんは変身したおばあさんにデレデレするのでした。
「それより、おじいさんは剣……ですか?」
「ワシは剣とこれじゃな」
おじいさんは掌を見せると、そこから黒い霧が生じました。
「それは……?」
「おっと、これには絶対に触れるでないぞ」
おじいさんはそう言うと霧を霧散させます。 黒い霧の正体が分からないおばあさんでしたが、おじいさんの自信に溢れた表情を見るに、とても強力なものであることが分かります。
「やれますか?おじいさん」
「もちろんじゃ」
力強く頷いて答えるおじいさん。準備万端です。
「っと、その前に。ミツユキちゃん!お願い!」
お姉さんが視線を向けた先には倒れて動けなくなっている鬼達の姿がありました。
ミツユキは呆れたように閉眼した後に、手を天に掲げます。
『……優しすぎるのも考えものだ』
掲げた手の上には虚空から流れ出た水が集まり、やがてそれは巨大な球体となります。
ミツユキが掲げた手を薙ぐと、巨大な水の塊が爆ぜ、癒しの雨を降らします。
「うぅ……?」
「くっ……な、何が……?」
動かなくなった鬼達が、ポツリポツリと意識を取り戻していきます。 癒しの雨により、鬼達の命は繋ぎとめられました。
「さて、これで心置き無く戦えるわ」
「そうじゃな」
おじいさんは剣を構え、おばあさんは杖を構え、上空の滅鬼を見据えます。 上空の少年も、ミツユキも、万全の態勢です。
「くっ……羽虫風情が……!どこまでもコケにしおってぇええ!」
✳
おじいさんは剣を構え、一足飛びで上空の滅鬼の元へと肉薄します。
「具合が悪そうじゃの?」
「!?貴様……!」
若返りこそしなかったものの、おじいさんの身体能力が桁違いに跳ね上がっていました。
「そぉい!」
おじいさんの小さな体格に似合わない豪快な打ち下ろし。
「ちっ!」
滅鬼は落ち着いて受け止めますが、衝撃を殺しきることはかないません。 地上へと落ちる滅鬼に、
「はぁあああ!」
「!?」
お姉さんがおじいさんを上回る身体能力を発揮し、滅鬼に拳を打ち付けます。
「ぐっ!?」
滅鬼は結界で受けますが、衝撃を殺しきれず、弾き飛ばされ地面に叩きつけられます。
舞い上がる砂塵に向かっておじいさんは追撃を仕掛けます。
「調子に乗るなぁあ!」
ヒュゴオオオ!
砂塵は滅鬼の金棒の一振りで容易く振り払われます。
しかし、そこにおじいさんはいません。
「単純じゃの」
「!」
おじいさんは展開させておいた黒い霧を滅鬼に浴びせました。
「む……?」
警戒する滅鬼ですが、滅鬼は変化を感じ取れません。
「勝負ありじゃな」
「何を世迷言を……!それがどうしたというのだ!?」
滅鬼は金棒を振りかぶり、おじいさんに向かって飛びかかってきます。 しかし、おじいさんには届きません。
「な!?」
滅鬼はそこでおじいさんのもたらした変化に気がついたようです。しかし、気がついたところでもう手遅れ。
「言ったじゃろう?勝負ありと」
おじいさんは剣を握る拳を固く握りしめます。そして、
「お主が人々に植え付けた苦しみと恐怖……お主も少しは感じてみるがいい!」
「ま、魔力が……消失しただと!?ありえ……ぐはぁああ!?」
おじいさんの拳は滅鬼の顔面を打ち抜き、吹き飛ばします。 吹き飛んだ先には、
「反省しなさい!滅鬼!」
お姉さんが杖を振りかぶり、待ち構えていました。
「お仕置きです!」
「ぶべっ!?」
大振りの一撃をまともに受けた滅鬼は上空へと打ち上げられます。 そこには、
「ひっ!?」
少年がいました。
「安心しろ」
「っ?」
少年は笑みを浮かべるだけで動きを見せません。
「俺が手を下すまでもねェ。見物しておいてやるから華々しく散ってこい」
「〜っ!」
滅鬼は浮遊する力も残っておらず、翼をもがれた鳥のように地に堕ちていきます。
「ぐっ!」
もはや着地をするだけで精一杯の有様。
「おじいさん、あの黒い霧は一体?」
滅鬼が突如として力を失った理由について、お姉さんが尋ねてきました。
「あれは暗黒物質……あれを浴びたら異能の力の源をごっそりと失ってしまうのじゃ。あくまで一時的にじゃがな」
「それではまた力が戻るのですか?」
「安心せい。日を跨ぐ程の時間は必要じゃ」
「それじゃあ滅鬼はもう……」
「うむ。もう戦えまい」
滅鬼を見れば、おじいさんの言った通りボロボロの有様でした。 全身は血にまみれ、呼吸も荒く、もはや立ち上がっているのがやっと。
「はぁ……はぁ……!クソ虫どもめが……!」
睨みつけてくる滅鬼ですが、かつての力はありません。窮鼠が猫に噛み付かんと牙を剥く……その程度のものでした。




