第5話 元部下、足跡を追う
オルソンが死を偽装した日の王都の聖騎士団本部。
静まり返る執務室で、若き聖騎士団長カレンは膨大な書類の山を前に、痛むほど激しく唇を噛み締めていた。
「オルソン様が……死んだ? そんなはずはない、絶対にあり得ないわ」
彼女はオルソンの元部下であり、最も近くで彼の超人的な戦いぶりを見続けてきた人物である。
迷宮で回収されたとされる「遺品」の数々を詳細に検証したカレンは、確かな違和感を抱いていた。
――オルソン様の愛用していた愛剣の破片……確かに間違いなく本物です。ですが、あの慎重を絵に描いたような方が、ボスの攻撃を正面から受けて爆死するなどあり得ません。
街の情報収集にあたらせている部下からの報告に引っかかるものがあった。
報告によると、オルソンの死亡直後、迷宮近くの街で「大量の金貨を換金した不審な男」の目撃証言があった。さらに、王都へ向かう乗合馬車の乗客名簿の中に、オルソンが昔好んで使っていた偽名の痕跡を発見する。
――生きている……オルソン様は、ご自身の意思で意図して姿を消したのだわ。
死の偽装。なぜそんな大掛かりなことをしたのか、カレンには痛いほど察しがついていた。
上層部からの過酷な要求、無茶な若手の指導、休みのない殺人的な日々。オルソンが精神の限界を迎えていたのは、一番近くにいた自分が誰よりもよく知っている。
「ですが、勝手に死んだことにされて逃げ出されては困ります! 私たちの指導はどうなるのですか!」
カレンは甲冑のベルトをきつく締め直した。
――待っていてください、オルソン様。世界のどこに隠れようと、必ず探し出してみせます。
元部下の並々ならぬ執念による足跡追跡が、静かに、そして確実に始まろうとしていた。
カレンは即座に特別追跡部隊の編成を開始。表向きは英雄の遺品回収と偽りつつ、精鋭の部下たちには極秘裏にオルソンの捜索命令を下す。彼女の卓越した洞察力は、彼が遠い異国へ逃避するのではなく、灯台下暗しという言葉通り、あえて王都の喧騒の中に潜伏している可能性を弾き出していた。
「あの徹底した合理主義者であるオルソン様なら、もっとも警戒が手薄になる大都市の路地裏を選ぶはず」
彼女は愛用の細身の長剣を腰に差し、執務室の窓から広大な王都の街並みを見下ろした。その瞳には熱い使命感と、尊敬する上官を絶対に連れ戻すという不退転の決意が宿っていた。
――逃がしませんよ、オルソン様。連れ戻したら、まずは今までの溜まった書類仕事をすべて片付けていただきますからね。
彼女の足取りは力強く、隠遁する元英雄の元へと着実に迫っていくのだった。




