第4話 隣の部屋から聞こえる怪しい音と、届かない宅配便
引きこもり生活二週間目。オルソンの平穏な日常に小さな亀裂が入り始めた。
隣の部屋――202号室から、夜な夜な不穏で怪しい音が聞こえてくるのだ。
「グハハハ……我が力の封印が解ける日も近いぞ……! だが、くそっ、この魔力回路の不具合さえ治れば……よし! これで世界の均衡が……!」
薄い壁越しに聞こえてくる物物しい危険な言葉遣いと、何か金属を組み立てているようなカンカンという乾いた機械音。
オルソンは両耳を塞ぎ、重いため息をついた。
――頼むから静かにしてくれ……せっかくの貴重な睡眠時間が削られる。
隣人は最近引っ越してきた男らしいが、滅多に廊下で顔を合わせない。おそらく完全な夜行性なのだろう。オルソンは無用なトラブルに関わるのを嫌い、深く追求せずに耳栓をして寝ることにした。
翌日、通販で注文していた生活雑貨の宅配便が届く予定だった。しかし、待てど暮らせどドアのチャイムは鳴らない。
不審に思ってドアをそっと開けると、ポストに一枚の不在票が入っていた。
――なんでだ……ずっと部屋に引きこもっていたのに……。
思考を巡らせたオルソンは愕然とした。気配を完全に消しすぎていたせいで、荷物を届けに来た配送員に「不在」と判定されてしまったのだ。
隠密スキルがまさかこんな形で裏目に出るとは。部屋に居ながらにして存在しない扱いを食らったオルソンは、自分の気配コントロールの難しさに頭を抱えた。
――明日は気配を垂れ流して待つか……いや、そうすると自分をよく知る者に勘づかれるリスクが……。
四畳半の城で、元英雄は真剣な表情で葛藤していた。
かつて世界の命運を賭けた極秘作戦ですら完璧に完遂してきた彼にとって、このような間抜けな失敗は屈辱以外の何物でもなかった。ないとは思うが、気配を解放しすぎれば近所に生息する危険な暗殺者や昔の追手に位置を察知される恐れがある……。
悩みに悩んだ末、彼はひとつの結論に達した。明日の再配達時には、玄関の扉をわずか一ミリだけ開け、室内の空気を僅かに振動させることで存在を主張する『微弱気配展開術』を試すことにしたのだ。平和な隠遁生活を守るための戦いは、オルソンにとって想像以上に高度で過酷なものであった。




