第32話 結晶竜の咆哮と猛攻
黒い霧を吹き散らし地表を破って現れた巨大な魔物。それはかつて未知の迷宮の最深部に封印されていた、意思を持つ伝説の異形――結晶竜『グラングラド』であった。
『……退屈な眠りを破る者は誰だ。小さき蟲ケラどもめ、我の糧となれ』
グラングラドが地鳴りのような猛悪な咆哮を上げると、周囲の魔物たちが狂乱状態に陥り、一斉にオルソンたちへ向けて怒濤の如く襲いかかってきた。結晶で覆われた眼光が鋭く光り、戦場全体を圧倒的な威圧感が支配する。
「ヴァルバトス、雑魚を散らせ! あいつは俺がやる!」
「命令するなと言いたいところだが……任せたぞ! 我らの平穏を乱した罪、その身で贖うがいい!」
ヴァルバトスが詠唱を放つと、漆黒の極大魔力陣が展開され、広範囲の牽制魔法が爆発した。主の周囲に群がる雑兵たちが一気に吹き飛ばされ、グラングラドの足元に一瞬の決定的な隙が生まれる。
「行くぞ……!」
その一瞬を見逃さず、オルソンは地面を蹴った。元SSS級冒険者としての動きが一気に解き放たれ、残像を残すほどの速度で突撃する。
『愚かな人間が!』
グラングラドはすかさず山をも穿つほどの巨大な前脚を振り下ろした。鋭い結晶の爪が空気を切り裂き、直撃すれば砕け散るほどの威力が迫る。
オルソンは退かない。愛用の盾を斜めに構え、極限まで高めた強度魔法で一撃を受け止めた。
ガァァァンッ!
甲高い衝撃音が轟き、足元の岩盤が粉々に砕け散る。オルソンは盾の表面で威力を巧妙に殺し、巨腕の軌道を横へと受け流した。巨大な前脚が大地に突き刺さり、グラングラドの姿勢がわずかに崩れる。
「今だ!」
オルソンは受け流した勢いをそのまま推進力に変え、結晶の巨躯の懐へと一気に飛び込んだ。
その動きはあまりに速く、数々の戦場をくぐり抜けてきた熟練の足さばきそのものであった。至近距離に肉薄されたグラングラドは驚愕に目を剥き、反射的に口腔から高熱のブレスを吐き出そうと魔力を練り上げる。そう来るだろうとオルソンはすでに相手の攻撃パターンを見抜いていた。相手の動作の予兆を精確に捉え、ブレスが放たれる一瞬前に死角へと滑り込む。
「遅い!」
研ぎ澄まされた鋭い眼光で敵の核を探り当て、オルソンは愛用の剣のグリップを強く握り直した。




