第33話 一閃の結末と本当の戦い
懐へ潜り込んだオルソンに対し、グラングラドは即座に胸元の結晶甲殻を発光させた。高密度の魔力を放出し、至近距離から周囲ごと吹き飛ばそうとする広範囲攻撃の予兆だ。
『灰燼に帰すがいい!』
「させるかよ!」
オルソンは懐の狭い空間で素早く剣を押し込み、魔力が解放される直前の微小な隙間へと突き立てた。高まる魔力の波形と構造を瞬時に見抜き、最小限の力で魔力循環を断ち切る。バチンと弾けるような音とともにグラングラドの詠唱が霧散し、胸元に埋め込まれた赤く輝く弱点――『核』が露わになった。
「これで終わりだ」
研ぎ澄まされた集中力の中、研ぎ澄まされた一閃が走る。刃は吸い込まれるように、グラングラドの核を的確に穿ち抜いた。
パキィンッ!
澄んだ乾いた音が戦場に響き渡り、核が粉々に砕け散る。
『バカな……この我が……このような場所で……!』
グラングラドの巨体が激しく崩れ落ち、盛大な土煙を上げた。主を失い、自我の統率を解かれた魔物たちはパニックを起こし、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げ去っていく。
防衛戦の完全なる勝利に、遠くの城壁から騎士団の歓声が上がる。カレンが安堵の息を吐く気配を感じ取りながら、オルソンは静かに剣を鞘に納めた。誰にも気づかれないよう隠密スキルを発動し、気配を消してその場を立ち去る。
「ヴァルバトスは、もういないか、ふぅ……これでようやく寝られる……」
疲労困憊の体を引きずり、ボロボロになった四畳半のアパートへ辿り着いたオルソン。しかし、部屋のドアを開けようとした瞬間、背後からガシッと力強い手で肩を掴まれた。
「ちょっとオルソンさん! どこ行ってたのよ!」
「……マーサおばさん」
仁王立ちで立っていたのは、腕まくりをした大家のマーサおばさんだった。
「地震でアパートの外壁はひび割れるわ、屋根瓦はズレるわで大変なのよ! あんた手先が器用なんだから、文句言わずに手伝いなさい!」
「え、いや、俺はこれから二度寝を……」
「何寝ぼけたこと言ってるの! ほら、さっさと防具を脱いでトンカチと漆喰持って屋根に登る!」
抵抗する間もなく駆り出されたオルソンは、元SSS級冒険者の分析力と細やかな技術を無駄にフル活用し、屋根瓦の葺き替えから外壁の補修、きしみ始めた柱の補強まで完璧にこなしていった。
作業が終わる頃には、すっかり陽が落ちて空には星が輝いていた。
「助かったわよオルソンさん。やっぱり頼りになるわねぇ」
「……どうも」
ヘトヘトになりながら、ようやく自分の四畳半の部屋へと戻る。地震で多少散らかったものの、無事に壊れず残った愛おしい我が家。
使い古された薄い布団へと倒れ込み、体全体を滑り込ませる。激闘の疲労と、突如として始まった日曜大工による心地よい身体の痛みが、じんわりと身体を包み込んでいく。
「……やっと、寝られる……」
枕に顔をうずめ、深く息を吐き出す。外の騒がしさは遠のき、部屋の中には静寂だけが満ちていた。溢れ出す安堵感と最高の幸福感に包まれながら、元英雄はゆっくりと深い眠りへと落ちていった。(了)
読者のみなさま、ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
「もっと早く上手な休息の取り方を知りたかった」という思いから描き始めた物語でしたが、最終的には主人公が影から静かに支える……(思いっきり前線に出てましたけど)……役割へと落ち着いていきました。
最近は短編や話数の少ない作品が続いていましたが、次は長期連載に挑戦できるような充実した物語をお届けしたいと考えています。
その際には、ぜひ温かく応援していただけると嬉しいです。




