第26話 元部下との共闘、ただし部屋の敷居は絶対に跨がせない
翌朝。極限の恐怖に叩き落とされた闇の組織の残党たちは、夜明けとともに逃げ出そうと路地裏へ飛び出した。運の悪いことに、ちょうどそこへやってきたのがオルソンの様子を見に訪れていた聖騎士団長カレンだった。
「なにごとですか! その黒ローブ……王都で噂の闇の組織『漆黒の爪』ですね! 逃がしません!」
カレンは瞬時に愛剣を抜き放ち、退路を断つように残党たちを追い詰める。だが、追い詰められたリーダーは狂気的な笑みを浮かべ、隠し持っていた過剰出力の魔導爆弾を起動させた。アパートごと周囲の区画を吹き飛ばそうという捨て身の策である。
「ハハハ! 貴様らまとめて巻き添えになって死ねぇ!」
「しまっ――!? 距離が……間に合わない!」
爆発の激しい光が弾けようとしたその瞬間、二階のベランダから疾風のごとき影が舞い降りた。
オルソンだ。彼は滞空する一瞬の間に手鏡を取り出すと、太陽光の反射を利用して魔導爆弾の過熱したエネルギー回路を完璧に遮断・狂わせた。そのまま無音で着地すると同時に、リーダーの首筋へ寸分の狂いもない手刀を叩き込み、一瞬で気を失わせた。
「オルソン様!」
あまりの早業に目を丸くしたカレンが、尊敬の念を極限まで高めて瞳を輝かせる。
「カレン、こいつらをさっさと連れて失せろ。アパートに警察や騎士団の本格的な現場検証が入ったら騒がしくて困る」
「はい! さすがオルソン様、街の危機をいち早く察知して私と共闘してくださるなんて……!」
「違う、ただ昨夜からうるさかっただけだ。……おい、事件解決したからって当たり前のように部屋に入ろうとするな! 敷居を跨ぐなと言ったろ!」
手柄を報告するフリをしてどさくさに紛れ、部屋へ上がり込もうとするカレンを、オルソンは間一髪のところでドアを勢いよく閉めて物理的に阻止した。
閉ざされた扉の向こうから「そこをなんとか! オルソン様の淹れた紅茶が飲みたいのです!」という悲痛な叫び声が響くが、彼は一切無視して深くため息をつく。静かな朝を取り戻したはずのリビングには、ただ冷めたコーヒーの香りと、やけに騒がしい余韻だけが残されていた。オルソンは頭痛を抑えるようにこめかみを押さえつつ、静かに椅子へと腰を下ろすのだった。
「これで今夜からまた静かに眠れるだろうか……」




