第25話 指一本動かさずに相手を恐怖させる引きこもり術
一階のアジト内部では、闇の組織の面々が妖しく光る完成間近の魔導兵器を囲み、高笑いを上げていた。
「くっくっく、これで王都は我らの手の中に――明日にはこの街を恐怖のどん底に落とし込んでやる!」
兵器の駆動音が「ブォォォン……ガガガガッ!」と室内に爆音を轟かせ、床と壁を激しく揺らす。世界征服の野望に胸を躍らせる男たちは、自分たちが撒き散らす騒音が誰の逆鱗に触れたのか、知る由もなかった。
ギシ……。
重厚なドアが、一切の抵抗感なく静かに開いた。そこに立っていたのは、ボサボサ頭にヨレヨレの部屋着を着た、無精髭の男――オルソンだった。そしてそのすぐ後ろには、威圧感を放つ大柄な男ヴァルバトスが仁王立ちしている。ヴァルバトスの眼光は獲物を前にした猛獣のように鋭く光り、異様な圧迫感を醸し出していた。
「おい、不法侵入者ども。今が何時だと思っているんだ」
氷の刃のように冷ややかな声が部屋に響く。しかし、組織のリーダーは目の前の男たちを見て鼻で笑った。
「何言ってやがる。俺たちは正規の契約でここを借りているぞ」
リーダーの威勢の良い言葉を皮切りに、周囲の構成員たちも強気な笑みを浮かべる。
「そうだ! 大家にだってちゃんと話を通して金を払ってるんだからな! 文句があるならお前らが出ていけ!」
しかし、その強がりは長く続かなかった。
オルソンが静かに一歩、前へ足を踏み出した瞬間。
部屋全体の空気が目に見えるほどの重さを増し、ギシギシと床板が悲鳴を上げた。剣を抜くわけでもなく、指一本動かしていない。ただ、オルソンがこれまで無数の死線を越えて培った膨大な殺気と精神圧力を、蛇の毒のようにほんの微量漏らしただけだ。同時に、後ろに控えるヴァルバトスからも膨大な威圧感が押し寄せ、狭いアジト内は完全な密室の処刑場へと変貌する。
「ヒッ……!? ぐっ……あ……っ!?」
部屋にいた構成員たちは途端に呼吸すら許されなくなり、膝から床へ崩れ落ちた。先ほどまでの威勢はどこへやら、目の前に立つ二人が世界の全てを呑み込む巨大な天災そのものに見える。視線を合わせるだけで精神が粉砕されそうな圧倒的な暴力の気配に、心臓は早打ちし、全身の毛穴から冷や汗が噴き出した。世界を征服するはずだった巨大な魔導兵器すら、二人の発する気圧に押されて惨めな沈黙を守っている。
「今すぐその汚いガラクタを片付けて、朝までにここを引き払え。次はないぞ」
「は、はいぃぃぃっ! すぐに出ていきますぅっ!」
正規の契約などという言い訳は、圧倒的な暴力の気配と殺意の前には何の意味も持たなかった。闇の組織は恐怖のあまり全員が涙と鼻水にまみれながら平伏したのだった。こうして、アパートには再び静寂と至高の眠りが訪れることとなった。




