第22話 布団を干すことの幸せ
絶好の洗濯日和だった。
雲一つない青空が広がり、ぽかぽかと暖かい太陽の光が王都を照らしている。
オルソンは早朝から起き出し、万年床の布団をベランダの手すりへ干していた。竹竿でパンパンと叩くと、太陽の匂いが空気中に弾ける。
「素晴らしい……これぞ至高の休日だ」
ベランダで腕を組み、干された布団を眺めるオルソンの表情は、晴れやかそのものだった。
隣のベランダに出たヴァルバトスが、呆れたように声をかけてくる。
「貴様、たかが布団を干すだけで何をそんなに感動しているのだ」
「分かってないな、ヴァルバトス。ふかふかの布団で眠る快適さは、世界平和と同じくらい価値があるんだぞ」
「比べられる世界の身にもなれ」
ヴァルバトスは鼻で笑ったが、オルソンは本気だった。雨の降る泥まみれの戦場で、濡れた外套に包まって眠った夜が何度あっただろうか。冷え切った体で、明日生きていられるかも分からない恐怖と戦い続けた日々。
凍える夜を幾度も越えてきた身体には、太陽の熱を孕んだ繊維の心地よさが痛いほど染み渡るのだ。
それに比べれば、乾いた布団の温もりは、何物にも代えがたい幸福そのものだ。
「救われた世界でこれ以上いったい何を救えというのか……今の俺にとっては、この布団が太陽の光を吸い込む時間の方が遥かに重要なんだ」
オルソンは満足げに息を吐き、ベランダの柵に深く背をもたれかけた。
街道からは街の人々の穏やかな話し声や、焼きたてパンの芳しい香りが風に乗って運ばれてくる。魔獣の咆哮と悲鳴に満ちていた戦場とは、あまりにもかけ離れた穏やかな日常。
ヴァルバトスは「やれやれ」と肩をすくめつつも、それ以上はオルソンの言葉を否定しなかった。
オルソンはゆっくりと目を閉じ、温かい風を肌で感じた。
今夜は香ばしい陽の光をたっぷり吸い込んだ布団に包まれ、心地よい眠りに落ちることができるだろう。
今日も世界は平和で、自分の布団は温かい。元SSS級冒険者の望む幸せは、ただそれだけで十分だった。




