第20話 聖騎士団長の休日と、狭い部屋での居候未遂
日曜日。珍しく私服姿のカレンが、大きな手荷物を抱えてアパートへやってきた。
「オルソン様! 本日は非番ですので、こちらで過ごさせていただきます!」
「帰れ」
即答するオルソンだったが、カレンはすでに隙を見て足を踏み入れていた。私服と言っても隙のない頑丈な旅装であり、手に持った革鞄には着替えや日用品がぎっしりと詰まっているように見える。玄関の狭い靴脱ぎ場は、彼女のブーツだけで半分以上が埋まってしまった。
「ちょっと待て、この荷物はなんだ」
「はい! この狭い空間でオルソン様がどのような生活を送られているのか、側で観察し、補佐するための居候セットです!」
「正気か!? 年頃の娘が三十八のおっさんの部屋に居座ってどうする! 噂になったらどうするんだ!」
「構いません! 師弟の絆に邪推など無用です! 近所の目など、私の誠実な挨拶で全て吹き飛ばしてみせます!」
堂々と胸を張り、眩しいほどの笑顔を向けるカレンに、オルソンは深い頭痛を覚えた。騎士団での真面目さが、こういう場面では完全に裏目に出ている。放っておけば本当に部屋の隅へ勝手に寝袋を敷き、明日の朝食まで作りかねない勢いである。
「駄目だ。絶対許可しない。第一、こんな四畳半に二人も居たら、俺が息苦しくて倒れる」
「では、私が掃除と洗濯を全てこなします! 料理も訓練の一環として努力いたします!」
「家事なら俺の方が上手い! 焦げた謎の肉を食わされる俺の身にもなってみろ! とにかく出て行け!」
「いいえ、密かに訓練していた花嫁修業の成果を、ついに見せるときがやって来ました! ですので、立ち去りません!」
押し問答は数十分におよび、狭いアパートの廊下に二人の押し押し問答が響き渡った。最終的に根負けしそうになったオルソンは、苦肉の策を提示した。毎日たった十五分だけドアの前で雑談に応じるという条件と引き換えに、カレンをなんとか部屋の外へ叩き出すことに成功したのである。
「十五分……約束ですよ! 明日の夕方も参りますから!」
ドアの向こうから聞こえる名残惜しそうな声と、ゆっくりと遠ざかる彼女の規則正しい足音を見送りながら、オルソンはその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「毎日十五分の相手か……余計に面倒なことになった気がするな」
大きく溜め息をつきつつも、オルソンは居候という最悪の未来をひとまず回避できたことに、心から安堵したのだった。




