第19話 治安の悪い路地裏で、欠伸しながら片付ける不審者
買い出しの帰り道、オルソンはあえて薄暗い路地裏を通っていた。表通りはカレンやレオンのような知り合いと遭遇するリスクが高すぎるからだ。手に下げた買い物袋には、タイムセールの安売り卵と日持ちするパン、安ワインが収まっている。静かな隠遁生活を守るためには、余計な社交など極力避けるに限る。
しかし、路地裏には路地裏の面倒くささがあった。
「おいおっさん、良い物持ってそうだな。身ぐるみ剥がされたくなきゃ、酒と持ってる金を全部置いていきな」
刃物をチラつかせたガラ悪そうな男たちが三名、オルソンの前後を挟み込んできた。王都の治安悪化に乗じた、ただの小悪党だ。ギラついた眼光でこちらを威嚇してくるが、体の軸はブレブレで目線も泳いでいる。
オルソンは買い出し袋に入った卵を割らないよう、慎重に左手へと持ち替えた。
「あー……お兄さんたち、悪いけど俺は今、猛烈に眠いんだ。手短に済ませてくれないか?」
「ハッ! 命が惜しくないのか……ぐはっ!?」
男が勢い任せに踏み込んでくるより早く、オルソンは欠伸をしながら手振りを一つ添えた。相手の踏み込みの力を最小限の動きで利用し、無防備になった顎の下へ軽い掌打を打ち込む。脳を揺らされた男の膝が砕けるのと同時に、体さばき一つで二人目の軸足を払い落とした。さらに間髪入れず、残る三人目の突き出してきた腕を絡め取り、手首を捻って刃物を容易く奪い取る。
時間にしてわずか三秒。
男たちは何が起きたかも理解できないまま、絶句して地面に転がり気を失っていた。相手の力を殺し、己の力を使わずに制する流れるような身のこなしは、戦場で恐れられた伝説の業そのものだった。
「ふあぁ〜あ……卵も無事だな」
袋の中身を確認し、ひび一つ入っていないことに安堵の息を漏らす。オルソンは倒れた男たちのポケットを探り、落ちていた小銭を数枚拝借すると、夜道の見回り料として自分の財布に収めた。
誰にも気づかれず不殺を行使した男は、拾い上げたナイフをゴミ箱へ放り投げた。そしてそのまま欠伸を噛み殺しながら、ぬくぬくとした布団が待つアパートへと足早に立ち去って行った。




