第18話 押し掛けてきた元弟子と、時代遅れのお説教
「師匠! いらっしゃるのは分かっています! 出てきてください!」
休日の静かな朝を破ったのは、ドアの外から響く若い男の叫び声だった。ドアスコープを覗くと、かつてオルソンが数か月だけ指導を担当した元弟子の剣士、レオンが立っていた。
「頼むから静かにしてくれ……隣にも近所にも迷惑だろ」
仕方なくドアを数センチだけ開けると、レオンは食ってかかるように叫んだ。
「やっぱり生きていたんですね! カレン団長から噂を聞いて飛んできました! 師匠、なぜこんな所で腐っているんですか! あなたの剣術があれば、新設された騎士団の総帥にだってなれるのに!」
熱弁を振るう元弟子に対し、オルソンは重い欠伸を噛み殺した。目元の隈を指で擦りながら、やれやれと首を振る。
「レオン、お前な……俺はもう引退したんだ。新しい時代はお前たち若いのが作ればいい。俺に時代遅れのお説教を期待するな」
「時代遅れ!? 師匠の教えがあったからこそ、俺は今Bランクまで上がれたんです! 基本を怠るな、命を第一に考えろ……あの言葉をもう一度、後輩たちに伝えてやってください!」
「それはお前が伝えればいいだろう。俺はもう、自分の命と布団を守るだけで精一杯なんだ」
暑苦しい精神論を語るレオンの姿に、オルソンは胸が焼け焦げるような疲労感を覚えた。若い情熱は眩しすぎる。今の自分には、ただただ眩しすぎて目に毒だった。戦場で負った右膝の古傷が、嫌な湿気を含んで痺れるように痛む。
「じゃあな。二度と来るなよ」
バタンとドアを閉め、キーをロックする。外で叫び続ける元弟子の声を耳栓で遮断し、オルソンは深い溜息をついた。冷めきったハーブティーを一口飲み、薄暗い部屋の奥へと足を向ける。壁に掛けられた古びているもののよく手入れの行き届いた剣の鞘だけが、過去の栄光を静かに物語っていた。オルソンは二度とそれを握る気がないかのように背を向け、這うようにして再び温かい布団の中へと潜り込んだ。




