第14話 若手冒険者が訪ねてくる「都市伝説の部屋」
カレンの執拗な探りをなんとか交わし、ヴァルバトスとの密約によって平和を取り戻したかに見えたオルソンの元に、またしても新たな厄介事が舞い込んだ。
「ここか? 伝説のSSS級冒険者が隠れ住んでいるっていう都市伝説のアパートは」
昼下がり、薄いドアの外から威勢のいい若い声が響いてきた。ドアスコープから外を覗くと、無駄にギラギラとした派手な装備を身につけた三人組の若手冒険者が立っている。ギルドでオルソンが育成担当を命じられ、そのあまりの生意気さに胃を痛めさせられたタイプの典型的な若者たちだ。
「おいおーい、出てこいよ『消えた英雄』さんよ! 俺たちCランクパーティ『赤き竜の爪』が、あんたの錆びついた実力を確かめに来てやったぜ!」
ドンドンと乱暴にドアが叩かれ、アパート全体に振動が響く。ギルドの若者たちの間で、「王都の片隅の古アパートに伝説の冒険者が潜んでいる」という噂が急速に広まり始めているらしかった。その原因は間違いなく、連日この廊下に通い詰めている聖騎士団長カレンの悪目立ちのせいだ。
「効率の悪い昔の戦い方しかできないロートルだろ? 今の時代はスキル連携とスピード重視なんだよ! 引退したおじさんに最新の戦術ってやつを教えてやろうか?」
扉越しに聞こえる露骨で挑発的な言葉の数々。現役時代のオルソンなら、深くため息をつきながら外に出て、説教の一つでも垂れていたかもしれない。
しかし、今のオルソンは違った。
――面倒くさい。心底どうでもいい。
湧き上がってきた感情は、ただそれだけだった。
オルソンはゆっくりとベッドに横たわり、布団を頭までかぶった。かつての栄光も誇りも、売名行為に励む若者たちの威勢の良さも、今の彼にとっては昼寝の邪魔をする雑音に過ぎない。
その時、隣の部屋からドスドスという激しい足音が響き、壁を鋭く叩く音とともに重厚な声が廊下に轟いた。
「おい、そこでのたうち回っている羽虫ども。せっかくの昼食時になんという不快な騒音だ。消えねば魔導具の実験台にしてくれるぞ」
ベランダ越しに同盟を結んだ元魔王軍幹部の不機嫌な一言に、廊下の若者たちが一瞬で静まり返る。
「ふん、助かった」
オルソンは小さく呟くと、騒がしい現実を他人に丸投げし、心地よい眠りの中へと落ちていった。




