第15話 説教はしない、ただ布団を被って寝るだけだ
一瞬は静まり返った若手冒険者たちは、先ほどよりも声量を落として抗議してくる。
「おい! 聞こえてんだろ! 無視すんのかよ!」
ドアの外で彼らは苛立ちを募らせ、ドアノブをガチャガチャと乱暴に回している。
オルソンは深々と溜息をつくと、万年床の中央へゆっくりと歩み寄った。わざわざ外に出て説教をする気も、昔取った杵柄で真の実力を見せつけて分からせる気も一切ない。そんな面倒なことをすれば、自分の目指す平穏な引きこもり生活が崩壊するだけだ。
オルソンが選択した打開策は、極限の「完全無視」だった。
迷わず布団に潜り込み、頭まですっぽりと被る。そして枕元に置いてあった防音用の耳栓を耳の奥深くへと押し込んだ。
――若いうちは威勢が良いのは結構なことだ。勝手に壁にぶつかって怪我をして、勝手に失敗から学べばいい。俺はもうお前たちの父親でもなければ、頼れる指導員でもないんだからな……。
これまで自分を縛り付けていた過剰な責任感を手放した瞬間、心地よい強烈な眠気がオルソンを襲った。
一方、廊下では引き下がらない若手たちがさらに調子に乗っていた。
「おい、さっきの威勢のいい隣のおっさんも出てこいよ! 魔導具の実験台だぁ? 舐めたこと言いやがって、こっちは腸が煮えくり返ってんだよ!」
その言葉が引き金となり、隣室のドアがバチバチと怪しい魔力の放電音とともに静かに開いた。
「……私の貴重な研究時間を邪魔した上、不躾に吠えるか、羽虫どもが」
ヴァルバトスは冷ややかな眼光で三人組を見下ろした。その全身から溢れ出る圧倒的な威圧感と本物の殺気に、さっきまで威勢の良かった若手たちは一瞬で蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
「ひっ……な、なんだこの圧は……っ!?」
「き、聞いたことがある……魔王軍の残党にこんな化け物が……っ!」
「に、逃げろーーーっ!」
本能的な恐怖に駆られた若手冒険者たちは、すっかり腰を抜かしながら脱兎のごとく階段を駆け下り、二度と戻らない勢いで逃げ去っていった。
静まり返った布団の中で耳栓を外し、目を覚ましたオルソンは、静寂を取り戻した部屋で満足そうに欠伸をひとつ。
「よし、俺の勝ちだ……」
隣室の頼もしすぎる悪友に感謝しつつ、誰の期待も背負わない圧倒的な自由を噛み締めながら、元英雄は再び深い眠りの底へと落ちていくのだった。




