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1-24. 同点弾

 待望の同点弾は、後半15分に訪れた。ニコラス監督の言ったとおり、それは低い位置からのクロスから生まれた。


 後半が始まってから、やけにボールが集まってきた。そのおかげか、良いリズムを保っていられる。


 今度もまた、アンカーの横でボールを引き出した剛さんからグラウンダーのパスが来る。


 しかし、長い距離のパスは、ややスピードが遅かった。


 マーカーが、インターセプトを狙ってグラウンドを蹴ったのが分かった。


 ぼくは彼がボールをカットしようとした、その前に足を伸ばす。


「!?」


 驚きと焦りが入り混じった表情。爪先で触れたボールは、嘲笑うようにディフェンダーの股を抜けた。


 その時、ぼくははじめて自分が対峙している選手が前半と変わっていることに気づいた。


 ドレッドヘアを暴れさせながら、前半にマッチアップしていたブラームスが猛スピードでカバーに戻る。ぼくはボールを隠すようにターンしてそのプレスをいなした。


 どうやら、ブラームスを1列上げて、ウイングバックには本職のディフェンダーを入れたらしい。


 だけど、どうだっていいことだ。


 たぶん、ドリブルで一番大切なのは、「相手を見る」ことだと思う。よく見て、観察しなくちゃいけない。そして、相手が反応した方向の逆を突く。それが、ドリブルの本質だろう。


 いつもなら。


 そして、今日は、いつも通りじゃない。


 圧倒的に、集中できている。


「止まるのかヨっ……」


 ブラームスはつんのめるようにして何とか体を止める。


 まるで、ピッチ全体が自分と一体になったような感覚。同じ場所にいる全員の意思がぼくの中でつながって、どこかで聞いた音楽のように、自然に自分の中に流れ込む。


 だからぼくは、ただリズムを感じればいい。


 そして、果たすべき役割――自分が奏でなければならない音を、ぼくは知っている。そこに、反応する。それだけだ。


 ウイングバックの選手が戻り、再び2対1の状況に戻る。彼らは挟み込むようにプレスをかけてきて、ぼくはタッチライン際に追い込まれる。


 いや、追い込ませた、という方が正しい。


 足の裏で細かくボールを動かし、両側から出てくる足をかわす。


 なんだか、ダンスを踊っているような気分だった。


「ちょこまかと……!」


 ウイングバックは明らかに苛立っている。


 そして、待ち望んだ、しかし、必ず来るとわかっていたタイミング。そのタイミングで、アウトサイドでボールに触れる。


「っ! くそ!」


 ウイングバックの選手は慌てて股を閉じるが、間に合わない。


 パスの先には、フォローに来たマルティンが待っている。


 マルティンは足の裏でボールを止めると、ゆっくりと助走に入った。


 完全なフリー。その時点で、勝負は決まっていた。


 左足から放たれるクロス。その美しさに、ぼくは見惚れる。


 アウトスイングのクロスは、誰よりも先に、そして誰よりも長く跳躍した男の頭に、ぴたりと合った。


 逆モーションとなったGKは、ボールの方向を見送るのがやっとだ。


 厚く当たったヘディングが、サイドネットに突き刺さった。


 巨漢のノルウェー人が拳を高々と突き上げる。一ミリたりとも、表情は変えずに。


 歓喜とも悲鳴ともつかない絶叫がスタジアムを満たし、ぼくたちはパトリックに駆け寄った。


「すごいよパトリック! でっかい!」

「……良いクロスだった」


飛び跳ねながらタッチを求めるマルティンに、パトリックは無表情のまま応えた。マルティンは嬉しそうに笑う。


「お前ら! やりやがった!」

「うわっ!」


背中に衝撃が走って、ぼくは吹き飛ばされそうになる。剛さんが、後ろから飛び乗るように抱き着いてきた。お、重い……。


「同級生トリオでとっちまうなんて、なかなかないんじゃないか!?」


パトリックは頭を撫でてくる剛さんに迷惑そうな表情を見せる。しかし、手を振り払わないあたり、満更でもないのかもしれない。


 ウィーバーとダンソも遅れて輪に加わり、パトリックとタッチを交わす。そして、冷静にキックオフ後のマークの確認を始めた。


 いい時間にこそ、チームを引き締める。この辺りは、さすがにドイツ代表でもキャプテンを務めただけある。


 主審に促され、ぼくたちはハイバーズのキャプテンとCFが何やら話している横を通って自陣に戻る。


 聞きなれたチャントが聞こえてきた。ゴール裏の味方サポーターの歌声が、ホームの観客の歓声を打ち消していた。


―――――― 


 全員がポジションについたのを確認して、主審は笛を吹く。


 相手のCFは、CBまでボールを戻した。これまでの流れでは、GKが狙った大きなボールを蹴ってくるパターンだ。ぼくは、マルティンが競り合った後のサポートができるよう備える。


「蹴ってくるぞ!」


ウィーバーもロングボールを警戒し、ディフェンスラインの押し上げを止めた。


 しかし、彼らは裏をかいてきた。GKはCBにボールを渡し、さらに左SBへ展開する。


 一瞬、ヒーツの足が止まった。自陣に引き込んでのカウンターという狙いを捨てて、ビルドアップを選んでくるなんて、予想だにしなかったのだ。


 もちろん、狙いは分かる。このまま押し込まれ続ければ、さらなる失点は避けられないという判断だろう。


 だが、ピッチ上で戦術を変更することは、大きなリスクも伴う。


「ジュリアーノ! 行け!」


剛さんが大声で指示を飛ばす。ジュリアーノは、トラップ際を狙って素早く寄せた。


 相手のSBは、慌ててCBにボールを返すが、パスはややずれ、トラップは後ろ向きになる。


 その瞬間、ヒーツのハイプレスのスイッチが入った。


 パトリックが猛烈な勢いでCBを追い立てる。CBは、再びGKにボールを戻した。


 剛さんは素早く相手の3バックの左側に寄せ、ぼくはウイングバックにアタックできる位置を取る。


 パトリックは残り2枚のCBへのパスコースを切りながら、肉食獣のような迫力でGKを追い立てた。


 パスコースを探すが、見つからない。苦し紛れに蹴ったGKのロングボールは飛距離も出ず、マルティンがセンターラインの前で冷静にトラップする。


 再び、波状攻撃が始まる。


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