第42話「DX(デジタルトランスフォーメーション)防衛戦と、リモートワークの衝撃」
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「総督! 魔王軍の先鋒、約一万の部隊が東の荒野に出現しました! 奴ら、夜中の3時だというのに、松明を掲げて軍歌(社歌)を合唱しながら行軍してきます!」
深夜のペントハウス。
けたたましいアラート音が鳴り響く中、アリスが血相を変えて飛び込んできた。
しかしルークは、パジャマ姿のまま安眠チェアに深く座り、手元のタブレット型魔導具(ガチャ産)をスワイプしながら、欠伸を噛み殺していた。
「……夜中の3時に大声で合唱? 近隣住民への配慮が完全に欠如しているな。昭和の慰安旅行のノリかよ」
「ルーク殿! 寝巻き姿で何を暢気な! 直ちに全軍を叩き起こし、迎撃の陣を敷かなければ、街が火の海に……!」
「叩き起こす必要はない。夜間は『割増賃金』が発生するからな。我が軍の防衛は、すでに『2025年のスタンダード』にアップデートされている」
ルークはタブレットの画面をタップした。
「アリス、ザック。時代は『DX』だ。物理的な気合と根性で24時間戦うなど、半世紀前の遺物だよ」
ルークの指先一つで、タワーマンションの地下から無数の光が飛び立った。
一方、荒野を猛進する魔王軍・先鋒部隊。
指揮を執るのは、額にハチマキを巻き、血走った目をした魔族の「営業部長(という名の将軍)」だ。
「いいかお前らァ! 戦いは気合だ! 根性だ! 徹夜明けのランナーズハイこそが最大の攻撃力! 甘ったれたホワイト国家の連中が寝静まっている今こそ、我々の『24時間戦える』強さを見せつける時だ!」
「「「ウオォォォ!! 残業代ゼロ! やりがい無限大!!」」」
洗脳状態にある猛烈魔族たちが、怒涛の勢いでサン・アンドの防衛ラインに殺到する。
しかし、彼らを待ち受けていたのは、生身の兵士ではなかった。
「ブブブブブ……」
暗闇から現れたのは、無数の小型飛行ゴーレム(ドローン)と、重装甲の自律型ゴーレムの群れだった。
ゴーレムたちの顔の部分には、四角い魔法陣が浮かび上がっており、そこにサン・アンドの防衛隊員たちの顔が映し出されている。
『あー、こちら第3防衛班のドワーフ。音声聞こえますかー? 画面共有(迎撃魔法の照準)いきますねー』
モニター越しのドワーフは、なんと自室のフカフカのベッドに寝転がり、パジャマ姿でマグカップのコーヒーをすすりながら、手元のコントローラーを操作していた。
「な、なんだ貴様らは!? なぜ戦場に直接出てこない! 貴様らの戦士としての誇り(帰属意識)はどうした!」
営業部長が目を剥いて叫ぶ。
『いや、ルーク総督が「完全テレワーク(遠隔操作)推奨」って言うんで。危険手当も出るし、通勤時間ゼロだから最高っすよ。それじゃ、魔法撃ちますねー。ポチッとな』
ズガガガガガッ!!
ドローンから放たれた正確無比な魔法弾が、魔王軍の足元を正確に撃ち抜いていく。
魔王軍は剣や槍を振り回すが、相手は無機質なゴーレム。壊しても壊しても、すぐに「クラウド連動(予備機への意識の転送)」によって、別のゴーレムがその場を引き継ぐ。
「ええい、怯むな! 汗と涙の結晶である我が軍の突撃を見せてやれ!」
営業部長が叫び、自ら巨大な戦斧を振るって一体のゴーレムを叩き割った。
しかしその瞬間、モニターから間抜けな電子音が鳴った。
『ピポパ。……あ、そろそろ朝の9時か。俺、フレックスのコアタイム終わったんで退勤しまーす。あとはAI(自動迎撃システム)に切り替えておきますねー。お疲れ様でしたー』
プツンッ。
画面が消え、ゴーレムは完全に無人の「自動防衛モード」へと移行し、一切の感情を持たずに正確な防衛行動を再開した。
「ろ、ログアウトだと……!? 戦場の真っ只中で帰る(接続を切る)奴があるかァッ!! 上司の俺がまだ戦っているんだぞ!!」
昭和マインドの営業部長は、そのあまりにもドライな「2025年のワークライフバランス」を前に、怒りよりも先に激しいカルチャーショックを受け、膝から崩れ落ちそうになった。
さらに、ルークの容赦ない「最新技術」が魔王軍を追い詰める。
「ルーク総督! 敵将から、分厚い『降伏勧告および我が魔王軍の輝かしい企業理念』が結ばれた矢が射込まれました!」
ペントハウスで、ザックが百ページにも及ぶ巻物を広げた。
「ふむ……『若者よ、汗を流せ』『寝る間も惜しんで自己研鑽』……典型的な昭和の精神攻撃だな。読むだけ時間の無駄だ」
ルークは欠伸をしながら、その巻物をガチャ産の『自動読み取り機』に放り込んだ。
「アリス。我が総督府が誇る『生成AI魔導器』を起動しろ。プロンプト(指示語)はこうだ。『この文章を要約し、当方のホワイト労働法に基づいた丁寧かつ冷酷な「お祈りメール(拒絶状)」を、300文字以内で作成して出力せよ』」
「せ、生成えーあい……!? プロンプト……!?」
アリスが意味も分からずボタンを押す。
わずか3秒後。
ガガガッ! と魔導プリンターが作動し、完璧な時候の挨拶から始まり、相手の努力を形だけ讃えつつ、一切の隙なく降伏を拒否する「完璧なビジネス文書」が吐き出された。
「これを『ドローン便(ギグワークの配達員)』で敵将の頭上に投下しろ。……私はもう二度寝するから、あとは非同期コミュニケーション(チャットツール)に日報を残しておいてくれ」
ルークはアイマスクを装着し、安眠チェアの背もたれを完全に倒した。
一方、最前線。
徹夜で目を血走らせて書いた百ページの超大作ポエムに対し、わずか数分で「完璧に理路整然とした冷徹な拒絶状」が空から降ってきたのを受け取った営業部長は、ついに心が折れた。
「こ、こんな短時間で……これほど推敲された完璧な文章を……!? サン・アンドの頭脳(処理能力)はどうなっているんだ! 俺たちが徹夜でやってきた仕事は、一体なんだったというんだ……ッ!!」
圧倒的な「テレワークの安全性」と、生成AIによる「無慈悲な業務効率化」。
汗と涙と徹夜を美徳とする魔王軍の先鋒部隊は、一度も敵の生身の兵士に触れることすらできないまま、2025年の最新ビジネススタイルの前に、精神的に完全に敗北し、逃げ帰っていくのであった。
「……ルーク殿。我々は今、とんでもない魔法を目の当たりにしているのかもしれません」
アリスが、ルークの寝顔と無人のモニターを見比べながら、畏れ慄くように呟いた。
「事なかれ主義」の極致は、ついに戦争の概念すらも「リモート業務」へと変えてしまったのである。
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