第37話「世界首脳会議と、完全リモート(ミュート)の交渉術」
サン・アンドの急速な発展は、世界各国のパワーバランスを大きく揺るがしていた。
ついに、エルドリア王国、神聖ヴァレリウス帝国、ガレリア帝国などのトップが集う「第一回・世界首脳会議」が、中立地帯で開催されることになった。
当然、サン・アンドの総督であるルークにも招待状が届いた。
「参加必須? 馬鹿な。開催地まで馬車で片道一ヶ月もかかるじゃないか。そんな長期出張、私の腰がもたない」
ルークは招待状を丸めてゴミ箱に捨てようとした。
「しかしルーク様、欠席すれば各国のメンツを潰し、経済制裁を受ける可能性があります!」
ザックが慌てて止める。
「……仕方ない。アレを使うか」
ルークが倉庫から引っ張り出してきたのは、以前ガチャで引いた【SR:魔導ホログラム通信機(全天球型)】だった。要するに、ファンタジー世界版の高画質Zoomである。
会議当日。
円卓についた各国の王や皇帝たちは、空席となっているルークの席を見て不快感を露わにしていた。
「辺境の成り上がり者が、首脳会議を欠席とは……!」
その時、空席の上に青白い光の柱が立ち、ルークの姿が等身大のホログラムとして投影された。
『あー、本日はお日柄もよく。サン・アンド代表のルークです。ちょっと外せない用事(※新作ゲームの発売日)がありまして、オンライン(遠隔)で失礼します』
ペントハウスの安眠チェアに座り、コーヒーを片手にくつろぐルークの姿に、各国の首脳は度肝を抜かれた。
「な、なんだその魔術は! 空間を越えて姿を現すだと!?」
『ええ、当国の標準的な通信インフラ(ICT)です。さて、議題の「関税の引き上げ」についてですが……』
ルークは手元のスイッチを操作し、通信機の「背景変更(バーチャル背景)」機能をオンにした。
ルークの後ろの景色が、タワーの執務室から、突如として『炎に包まれて崩壊するガレリア帝国の戦艦(※ガチャで出た迫力ある特撮映像)』へと切り替わる。
「ひぃッ!? 我が国の最新鋭艦が、なぜお前の背後で燃えているのだ!?」
ガレリアの皇帝が悲鳴を上げた。
『おっと、失礼。背景の設定を間違えました』
ルークはポチッとボタンを押し、今度は『神聖ヴァレリウス帝国の国庫が空っぽになっているグラフ』に背景を変えた。
「な、なぜ我が国の極秘の財政状況が、貴様の背景に……!」
神聖帝国の教皇が泡を吹く。
ルークはただ、適当なフリー素材(ホログラムのプリセット画像)を切り替えているだけだったが、首脳たちには「サン・アンドの賢者は、各国の弱点を完全に掌握しており、いつでも我々を滅ぼせる」という強烈な脅迫状にしか見えなかった。
「あ、ルーク様。そろそろお昼休み(ランチタイム)です」
通信機のマイクが、後ろを通りかかったアリスの声を拾う。
『おっと、当国は労働基準法により12時から13時までは完全休憩となります。私はこれにて退席しますので、あとは皆様で適当に平和条約でも結んでおいてください』
ブツンッ。
ルークのホログラムは一方的に消失した。
残された各国の首脳たちは、顔面蒼白のまま震え上がった。
「……あ、あの男を怒らせてはならない。関税の引き上げは白紙だ。ただちにサン・アンドとの永久不戦条約を結ぶのだ……!」
かくして、ルークの「出張したくない」という極めて個人的な怠惰とリモートワークの悪用により、世界に真の平和が訪れたのだった。事なかれ主義の賢者は、今日も定時で帰り、安眠チェアで微睡み続ける。




