表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/103

第35話「『サン・アンドの賢者』と、意識高い系巡礼者」

毎日17時に更新します,

完結まで、継続いたしますので、最後に【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして、毎日追って頂けたら幸いです。


ガレリア帝国との国交樹立から一年。

サン・アンド自治領は、ガチャとホワイト労働の力により、大陸一のメガロポリスへと変貌を遂げていた。

そして、一夜にして荒野に摩天楼を築き、超大国を無血で退けた総督ルークは、いつしか世界中から畏敬の念を込めてこう呼ばれるようになっていた。


――『サン・アンドの賢者』と。


「……誰が賢者だ。私はただ、自分が定時で帰るためのシステムを作っただけなのに」

タワーマンションのペントハウスで、ルークは深くため息をついた。


最近の彼の最大の悩みの種は、「賢者の教え」を乞うために世界中から押し寄せる巡礼者たちである。

今日もタワーの下には、各国の若手エリート騎士や、新進気鋭の商人たちが長蛇の列を作っていた。


「頼むから追い返してくれ、ザック。私は忙しいんだ(※昼寝の時間が)」

「そうもいきません、ルーク様。連中、『賢者のビジネス・マインドセットを学ぶまでは帰らない』と、エントランスで座り込み(ストライキ)を始めておりまして……」


「意識高い系のストライキほど面倒なものはないな」

ルークは渋々立ち上がった。彼らを放置して景観が乱れれば、治安の悪化に繋がる。


ルークはエントランスに降り立ち、目をギラギラさせた数百人の巡礼者たちを見下ろした。

「賢者様だ!」「どうか、究極の経営哲学アルティメット・メソッドをご教示ください!」


「……いいだろう。お前たちの熱意は伝わった」

ルークは静かに手を挙げ、騒ぎを鎮めた。


「真の叡智とは、座学ではなく実践ワークショップの中にある。お前たちには今から、我がサン・アンドの根幹を支える『究極のデータ処理業務』を任せる」


ルークがガチャで出した『手動式・大容量シュレッダー(※ただのハンドル式裁断機)』と、不要になった過去の帳簿の山を広場に持ち出させた。


「この紙の束を、均等な幅で細断し続けるのだ。単純作業の中にこそ、無の境地マインドフルネスと、組織の歯車となる真の喜びが存在する。……さあ、始めろ」


「おおお……! これが賢者の修行……!」

「不要な過去エビデンスを自らの手で切り刻み、新たな未来イノベーションを創出せよという暗喩ですね!」


意識高い系の巡礼者たちは勝手に深読みし、涙を流しながらシュレッダーのハンドルを回し始めた。

こうしてルークは、面倒な機密文書の廃棄作業(手作業でやると地味に疲れるやつ)を、無料で、しかも異常なモチベーションを持った若者たちに丸投げすることに成功したのである。


第36話「有給休暇の取得と、国家規模の捜索願い」

「……本日から三日間、私は『年次有給休暇』を取得する。緊急時以外は一切連絡してこないように」


ある日の朝礼で、ルークがそう宣言した。

労働基準法を自ら遵守し、部下たちに「休むことも仕事のうち」という姿勢を示すため(そしてただ純粋にダラダラしたかったため)の正当な権利行使である。


「ゆ、有給……! 賢者様がついに、神聖なる休息リトリートに入られるのですね!」

アリスが感極まったように叫ぶ。


ルークは誰にも行き先を告げず、タワーの地下にひっそりと設置したガチャ産の『完全防音・一人用カプセルホテル(魔導Wi-Fi完備)』へと引きこもった。

誰にも邪魔されず、ポテトチップス(錬金術師ギルド跡地の工場で生産させた)を食べながら、前世の娯楽小説の写本を読む。至福の時だった。


しかし、残された部下たちは「有給休暇の過ごし方」を根本的に勘違いしていた。


一日目の夕方。

「おかしい……ルーク様がどこにもいらっしゃらない。まさか、他国のスパイに誘拐されたのでは!?」

ザックが血走った目で街中を走り回る。


「あるいは、我々に黙って、単身で魔王領の深淵へ『市場調査(極秘ミッション)』に向かわれたのかもしれません! 総督府、第一種戦闘態勢へ移行!」

アリスが勝手に非常サイレンを鳴らし、ドワーフ機工団と獣人部隊が完全武装でサン・アンド全域の封鎖と捜索を開始してしまった。


地下の防音カプセルにいるルークは、地上で国家規模の戒厳令が敷かれていることなど知る由もない。


三日目の昼。

有給を満喫しきったルークが、欠伸をしながらタワーのロビーに姿を現すと、そこには徹夜の捜索でボロボロになったアリスやザック、そして何千人もの領民が集まっていた。


「「「け、賢者様ァァァ!! ご無事でッ!!」」」

全員が安堵のあまり号泣しながら土下座する。


「……お前ら、有給中に仕事(緊急事態)の連絡をしてこないのは偉いが、なぜ街が戦場みたいになってるんだ?」


「ルーク殿! 一体どちらで、どのような過酷な防衛任務に就かれていたのですか! 我々を置いていかれるとは……!」

アリスが泣きすがる。


(ただ地下でポテチ食いながら寝てただけだなんて、絶対に言えない)


ルークは静かに眼鏡を押し上げ、遠い目をした。

「……私はこの三日間、完全なる『オフサイト・ミーティング(一人)』を行っていた。外部の情報を一切遮断し、サン・アンドの十年後の都市計画ビジョンを己の精神世界で構築していたのだ。……お前たちの騒ぎは、私の瞑想の妨げにはならなかったよ」


「おおお……! 休むと言いながら、誰よりも深く国を思っておられたのですね……!」



部下たちの勘違いはさらに深まり、その後サン・アンドでは「有給休暇中は、上司を絶対に探してはならない」という鉄の掟が法律として明記されることとなった。






最後までお読みいただきありがとうございます。


もし「日本では当たり前になりつつ倫理観で無双するのも面白いな」「憧れのホワイト経営の先が気になる」と少しでも思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマークをいただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ