第34話「不平等条約(ホワイト)と、グローバルな頭痛」
「……では、条約の締結だ」
ルークは、震える手でサインペンを握るヴァルガス提督の前に、一枚の羊皮紙を突きつけた。
『サン・アンド・ガレリア通商条約』
相互不可侵: ガレリア帝国は、サン・アンド自治領に対し、一切の軍事行動を行わない。
関税撤廃: サン・アンドからの輸出品(ドワーフの武具、カレーのスパイス等)に対し、関税を免除する。
技術供与の禁止: ルーク総督の保有する「古代技術」の解析・譲渡は行わない。
労働環境の改善: 帝国から派遣される駐在員に対し、当領土内では「ホワイト労働法(8時間労働・残業禁止)」を適用する。
「こ、こんな……我が国が一方的に不利な条件など……!」
ヴァルガスが呻く。
「嫌ならいいんだぞ。……アリス、ザック。例の『アレ』を準備しろ」
ルークが目配せをする。
「はっ! 『10連・対空迎撃ミサイルゴーレム(※ガチャ産)』、スタンバイ完了です!」
ザックが窓の外を指差す。そこには、花火大会用だが攻撃力がありそうな見た目の筒が並んでいる。
「わ、わかった! サインする! サインするから撃つな!」
ヴァルガスは泣きながら署名した。
こうして、サン・アンド自治領は、海を越えた超大国との間に、圧倒的に有利な不平等条約を結ぶことに成功した。
数日後。
ガレリア帝国の飛行戦艦は帰還したが、サン・アンドには数名の「駐在員」が残された。
彼らは当初、スパイ活動を目論んでいたが、すぐに骨抜きにされた。
「……なんだこの国は。昼休憩が1時間もある……」
「上司(ルーク総督)が定時で帰るから、我々も帰らざるを得ない……」
「宿舎のベッド(ガチャ産)がフカフカすぎて、本国への報告書を書く気になれない……」
彼らは完全に「ホワイト文化」に汚染され、本国へ送るレポートには「サン・アンドは楽園である。侵略は不可能。むしろ我々がこの文化を取り入れるべきだ」と書き連ねるようになった。
ルークは執務室で、宝珠を再び文鎮として使いながら、コーヒーをすすった。
「ふう……なんとか戦争は回避できたな」
しかし、彼のデスクには、新たな頭痛の種が積まれていた。
ガレリア帝国からの大量の『輸入注文書』と、アリスが持ってきた『世界貿易センター建設計画書』である。
「ルーク総督! 帝国との国交樹立により、世界中から商人が押し寄せています! もはや我々は一地方都市ではありません! 世界経済の中心になりつつあります!」
アリスが目を輝かせて叫ぶ。
「……頼むから、私を放っておいてくれ。私はただ、静かに暮らしたいだけなんだ……」
ルークの悲痛な叫びは、建設中の貿易センタービルの工事音にかき消された。
文鎮が引き寄せたのは、敵ではなく、逃れられない「グローバルビジネスの荒波」だったのである。
(完……? いや、事なかれ主義の戦いは、世界が終わるまで続く――)




