第33話「技術格差の誤解と、インスタントコーヒーの衝撃」
数十分後。
タワーマンションのペントハウスに、ガレリア帝国の提督ヴァルガスと、数名の武装した親衛隊が転送魔法で現れた。
ヴァルガスは歴戦の軍人といった風貌で、眼光鋭くルークを睨みつけた。
「貴様がこの地の長か。……ふん、魔力も覇気も感じられん。ただの軟弱な文官ではないか」
ヴァルガスは鼻で笑い、ルークの前に立った。
しかし、彼の部下たちは違った。
「て、提督……! この部屋……涼しいです! 外は灼熱の荒野なのに、一定の温度(24度)に保たれています!」
「それに、この窓ガラス……透明度が異常です! 我が帝国の技術でも、これほど歪みのないガラスは作れません!」
彼らはガチャ産の『魔導空調』と『強化ガラス』のオーバーテクノロジーぶりに、戦慄していたのだ。
(くっ……なんだこの空間は。古代の失われた技術の塊か!?)
ヴァルガスは冷や汗を隠し、虚勢を張った。
「単刀直入に言おう。我々の目的は、貴様のデスクにあるその『宝珠』だ。それを渡せば、命だけは助けてやる」
ルークは宝珠――ただの文鎮として使っていた球体――を指先でつついた。
「これか? 欲しければくれてやってもいいが……君たちに『使いこなせる』かな?」
「なんだと?」
「アリス、お客様にお茶を」
ルークの合図で、アリスが緊張した面持ちでカップを差し出した。中に入っているのは、ガチャで大量に出た【N:業務用インスタントコーヒー(粉末)】をお湯で溶かしただけの液体だ。
ヴァルガスは毒見をした後、一口すすった。
「……ッ!!」
目が見開かれる。
「こ、これは……『漆黒の覚醒水』か!? わずか一口で脳がクリアになり、疲労が吹き飛ぶ……! 我が国では王侯貴族しか飲めぬ希少品を、客人に振る舞うとは!」
(ただのインスタントコーヒーなんだが……)
ルークは心の中でツッコミを入れたが、表情は崩さない。
「我が国では、これが労働者の水代わりだ。……さて、ヴァルガス提督。君たちはこの程度の技術力で、私と戦争をするつもりか?」
ルークは立ち上がり、ブラインドを下ろした。
そして、宝珠に手をかざし、以前の「世界地図」を再び投影させた。
「見ろ。これが世界だ。君たちの国『ガレリア帝国』は、この西の大陸の……ここだな?」
ルークが指差したのは、地図上の詳細な軍事拠点情報(宝珠が勝手に解析したデータ)だった。
「な……! 我が軍の極秘ドックの位置まで……!?」
ヴァルガスが後ずさる。
「私はここに座ったまま、君たちの国の経済状況から、将軍の女性関係まで全て把握できる(※ハッタリ)。……それでも、この『サン・アンド』を焦土にするかね? その前に、君の艦隊の補給路を、私の『事務処理』一つで寸断することも可能だが」
ルークはただ、ガチャの「購入ボタン」に指をかけただけだった。
しかし、ヴァルガスにはそれが「超長距離戦略魔法の発動スイッチ」に見えた。
「ま、待て!!」
ヴァルガスが叫んだ。
「わかった……! 我々の負けだ! 交渉に応じよう! だからその『スイッチ』から指を離してくれ!」
ルークの「事なかれ主義」から来る虚勢と、ガチャアイテムの異質さが、軍事大国の提督を完全に屈服させた瞬間だった。




