9 約束
「これはー……6。ダメか〜」
(いくら探しても5〜10までしか見つからない……。もしかして私って、平均よりも少ないの?)
ピンポンパーン――――……
「!?」
『あー。もしもし。ひとつ言い忘れていた。最低3つは最後まで乗るように!それがクリアできれば上出来だ。戻ってこい。あと、ギリギリ同じ魔力のを探しても無駄だぞー。2時間以内に戻って来なかったら晩飯抜きだからな。以上!』
「う、バレてる……」
ペンタはアトラクションからそっと離れる。
「覚悟決めるしかないかって言っても、どれにしようかな……あっ」
ペンタの視界に止まったのはゴーカートだった。
「カートがひとつ無い……。誰か乗ってるのかな?」
近づき車に触れる。
火種は10。
「10!?いやいやいや。流石にこれは無理でしょ」
ギュルルルルルル!!!!!!
「え!?」
キキィ!!!
「あれ?ペンタ何してるんですか。あなた火種4でしたよね?これ乗るんですか?」
凄い勢いでカートをゴールまで乗りこなしてきたのは、ベクターだった。
「はは……。いやあ、流石に無理かな。それより、ベクターは10だったよね?10しか乗れないって事だけど、大丈夫なの?」
「何言ってるんですか。今のを見てなかったんですか?こんなの僕にとっては余裕ですよ」
ベクターがカートから降りる。
「……ねえ。気になってたんだけど、魔力がそんなにあるのにどうしてKなの?」
「それは僕も聞きたいですね」
「やっぱりAが良かった?」
「当たり前です。Aになるだけで他のレア度とは違う事が学べるんです。それに、特別入れる部屋も多くあります」
「えっ、そうだったの?知らなかった……。じゃあ、あの金髪の子は今頃特別な授業でも受けてるのかな?」
「そうでしょうね。その分、厳しいとは思いますが。それより、ペンタはひとつでもクリアできましたか?」
「実はまだひとつも……」
ペンタは恥ずかしそうに頭をかく。
「タイムリミットは短いですよ。僕が手伝いましょうか?」
「へ?」
ペンタはベクターの意外な提案に驚く。
「これから2年共にする仲です。ナナシ先生も、助け合いはダメなんて言ってないですし。僕が手助けしても問題はないでしょう」
「それは凄く助かるけど、ベクターもあと2つクリアしなきゃでしょ?」
「いえ。僕はこれで5つ目でした」
「はい!?もう終わってたの!?」
「はい。なので時間が有り余ってるんです」
(始まってからまだ30分もたってないよ……?こんなに凄い子に助けて貰えるなら、すぐにクリアできるだろうな。でも……)
「いや、せっかくだけどやっぱりやめておくよ」
「どうしてです?」
ベクターは意外そうな顔をする。
「私にはスクオーラを卒業して警備隊に入るって目的があるの。目指しているもののレベルを考えると、こんなところで躓いていちゃダメだから」
「なるほど。そこまで強い意志があるとは。ペンタは警備隊に憧れでもあるんですか?」
「んー、まあそんなとこかな」
(魔王の事は言わない方が良いよね……)
「なら僕はペンタを見守るだけにしますね」
「え?付いて来てくれるの?」
「言ったでしょう?時間が有り余っていると。手は出さないので、僕の暇つぶしに付き合って下さい」
ベクターが手を差し出す。
ペンタはその手を握る。
「ふふ。ベクターは優しいね。ありがとう」
ベクターは控えめに微笑む。
「では、まず火種が5のアトラクションを探しに行きましょう」
2人はゴーカートを出て歩き出す。
「なんで5?」
「先生が言っていたでしょう。火種を増やす事も可能だと。きっと、自分より火種の多いアトラクションに挑めば、増えるのではないかと僕は考えているんです。それでも1番最初に挑戦するものは、安全を考慮して1つ上くらいにするのが妥当でしょう?」
「確かに……」
「それでも、3つ目はできれば10に乗って貰いたいのですが」
「10?」
ペンタは先ほどのゴーカートを思い出し怖くなる。
「そもそも、今回は自身の限界を知るためのいわば訓練です。挑戦してみても良いのでは?」
「ん〜……そうだね。最後は挑戦してみようかな」
2人は上り坂に踏み込む。
「この上にいくつかあった気がします」
「確かにあったけど、どれも難しそうだったよ?」
「難しい?アトラクションが?もしかしてペンタ、乗り物が苦手なんですか?」
ペンタはベクターから目を逸らす。
「……箒と同じでしょうに。まあ良いです。とりあえずひとつ当てがあります。付いて来て下さい」
「……うん」
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「ベクター。これってメリーゴーランド?」
2人の前には、沢山の優雅な馬が凛々しく立っていた。
「そうです。これならペンタでも乗れるでしょう?」
「多分ね……」
2人はメリーゴーランドの中に入る。
ペンタは馬に触れてみる。
すると、火種が5つ出た。
「では、僕は外で見てるので」
「が、頑張るね!」
ベクターは頷いて外に出る。
「これに乗れば良いのかな?」
ガタンッ
「うわっ」
ペンタが馬に乗ったと同時に、メリーゴーランドが回り始める。
上下に動きながら回る馬を、ペンタはしっかりと掴む。上を見るとキラキラ光る鏡が付いている。
どこか懐かしい音楽を聴きながら、ペンタのテンションは上がっていった。
〜〜〜♪
「楽しい!私メリーゴーランド好きみたい!」
外で立って見守るベクターにペンタは手を振る。
「ははっ。良かったですね」
〜〜〜♪……
音楽が止まりメリーゴーランドも動きを止める。
「あれ?もう終わり?もう1回乗りたいな」
「ペンタ〜!あと2つ探さなきゃいけないんです。終わってから、また来ましょう?」
「そうだね!」
ペンタは馬から降り、ベクターのもとへ行く。
「凄くはしゃいでましたね?」
「だって、あんなの初めてだったから!見たでしょう?あの光る鏡に、グルグル回る馬!」
「はは!!ペンタ子どもみたいですよ。……僕は楽しそうなペンタしか見てなかったので、メリーゴーランドがどんな物だったかは思い出せないです」
「え……」
ベクターがペンタを見つめる。
「なに言ってるの!せっかくのメリーゴーランドを見てないなんて、勿体無い!」
ペンタは赤く染まった顔を背ける。
「だから、今度これに乗る時は一緒に乗りましょう?」
ベクターはペンタの背けた顔を覗き込み、どこか寂しげな表情で言う。
「……良いよ。1人であんなに楽しかったんだから。2人だときっともっと楽しいはずね」
約束ね、と言って2人は指切りをする。
「ありがとうございます。では、5は余裕そうだったので、次は一気にあげて8を探しに行きましょう」
ベクターがペンタの手を握り走り出す。
(へ?!)
「さっ。急ぎますよ!」
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次に2人が選んだのは、大きな船が前後に振れるバイキングだった。
「これは怖そうですよ、ベクター」
「大丈夫大丈夫。これも先ほどのメリーゴーランドと同じ、乗っていれば終わります」
「どう見ても同じではないよね!?」
「何かあっても僕が助けに行きますから。僕を信じて、安心して乗って下さい」
ベクターがペンタの目を見つめる。
「な……。そんな風に言われたら乗るしかないじゃん……」
「ふふっ。応援しています。頑張って下さい」
手を振るベクターにペンタも軽く手を振りかえす。
船に触れると火種が8現れる。
そのまま乗り込み、ベルトを付ける。
「これ、ちゃんとできてるよね?外れたりしないよね?」
ガゴンッ
「ひぃ!!!」
船が動き始める。
「ペンター!大丈夫ですよー!」
下の方で叫んでいるベクターを引き笑いで見るペンタ。
ゴオッ
前に出たかと思えば、勢いよく後ろに下がる。
「ひゃあ!!!」
それがどんどん加速していく。
「うう。吐きそう……」
そして、船が最大に動く。
「もう、無理……」
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「ペンタ!ペンタ!!」
「……う、ベクター?」
気がつくと、ペンタは近くのベンチに横になって倒れていた。
「あれ?私……あ!さっきの船!どうなったの!?」
「いきなり立ち上がると危ないですよ!」
「あれ?」
ペンタの視界が歪み、倒れそうになるのをベクターが支える。
「バイキングはギリギリクリアしています。安心して下さい。ただ、火種が吸われすぎたみたいなので少し休まないと……」
2人は並んでベンチに腰を下ろす。
「私情けないなあ」
「そんな事ないです。そもそも火種4の人が8に挑む事自体無茶でした。僕のせいです。申し訳ありません」
ベクターが頭を下げる。
「ベクターは悪くないよ!私がもう少し強ければ良かっただけで……。ん?」
「どうしました?」
ペンタの胸元を見ると、火種が5に増えていた。
「ベクター!私火種が増えてる!」
「本当ですね!おめでとうございます!」
2人はハイタッチをする。
「それで、休んだ後はどうしますか?5に挑戦するか、それともそれより上のアトラクションを目指すか……。僕は正直5を探す方が良いかなと思いますが」
「大丈夫だよ。段々頭もスッキリしてきたし、火種が増えた事で、少し心に余裕ができたような気もする」
「それなら、6ですか?」
「いや、10だね」
ベクターは驚く。
「何言ってるんですか。たった今、2倍の無茶したせいで倒れたんですよ?次はガマエルさんを呼ぶような事になるかもしれません」
「それでも、無茶したおかげで火種が増えた。ここに来るのは次いつになるか分からない。だったら、今いるうちに1つでも2つでも増やしておきたいの」
「……じゃあ、せめて最後のアトラクションは僕も一緒に乗らせて下さい。火種を使うのはペンタだけにすれば、問題ないはずです」
「分かった。ありがとう」
「ペンタは目が離せないですね」
「私ベクターより歳上だよ?子ども扱いしないで」
「ははっ」
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「最後はこれで良いんですか?」
「うん。どうせ10に乗るならこれが良い」
2人は最初のゴーカートまで戻って来ていた。
「確かに、これなら僕もいざという時助ける事ができます」
2人は緑のカートの前に立つ。
「まずペンタが乗って、カートが動き出したら僕が横に飛び乗ります。そうすれば、火種を使っているのはペンタだけになると思います」
「分かった」
ペンタがカートに乗り込む。
火種が10出る。
そしてベルトをし、ハンドルを握る。
「じゃあ行くよ!」
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「あと2分だな」
ナナシが腕時計を見る。
「戻ってきたのはこの2人だけ……」
「いやあ!遊園地は楽しいですね!」
「……」
「あの2人は一体何してるんだ?ペンタはともかく、ベクターまで遅いとは」
「まあまあ。あと2分はあるんだろ?心広く、待っていようじゃないか」
ガマエルがナナシの頭に乗る。
「あと1分……」
「先生ーー!!!」
前からペンタの声がする。
「あいつら!」
見ると、2人がカートに乗ったままナナシの元へ向かって来ていた。
「これ止まりませーん!!!」
隣に座っているベクターが叫ぶ。
「くそ!」
ナナシがカートの前に出て腕を広げる。
ガンッ!という鈍い音を出しカートが止まる。
「いってえ……」
ナナシが胸を抑える。
「先生!すみません!」
「申し訳ありません!」
2人が慌ててカートから降り謝る。
ゴチッ!!
「いったあ!」
「いっ……」
2人の頭にナナシの拳が落ちた。
「なんでこんな事になってんだよ!ちょっとお前ら火種見せろ!」
ナナシが2人の火種を見る。
「お前!!」
ベクターの火種は11に。
ペンタの火種は7になっていた。
「ペンタ、お前が頑張ったのは認める。だが無茶したな?その無茶のせいでカートが暴走してしまったみたいだ。あと、ベクター。火種は基本10までで、それを超えるやつは教師の中でもごく僅かだ。お前は何をした?」
ペンタはやらかしたという顔をして、下を向く。
「何もしていません。ただカートが急に暴れだして、ペンタの火種が底を尽きたんだと勘違いをした僕が、火種でカバーしようとしただけです。ペンタは横でピンピンしてたのですぐに間違いだと気づいたのですが、どうにも制御できなくて……」
「はあ……。まあ良い、クリアにしてやる。上への説明も面倒だから見なかった事にしといてやる。ただし、今日の風呂掃除はお前ら担当な」
「「はい」」
「よし。んじゃ、全員終わったな。お疲れさん」
「ワタシの出番なかったな……」
ガマエルが物足りなさそうに言う。
「良い事じゃないか。お前ら、次は寮の案内だ。付いて来い」
「ワタシはもう帰るぞ」
「おう。来てくれてありがとうな。またよろしく」
ガマエルと一行はぞろぞろと遊園地を出る。




