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8 担任

(ふう、なんだか緊張するなあ)


ペンタは4と書かれた扉の前で立っていた。

ルージーと離れた事で、安心できる人物がいなくなり進めなくなっていた。


(いやいやいや。これじゃあ本当にあの子の言う通り、警備隊なんてなれっこない……。サルビアを助ける為に頑張るって決めたんだから!)


ペンタは覚悟を決め扉を開ける。


「……まだ誰もいない」


ほっとしたペンタは、真ん中に置いてある4つの席を見る。


「これ座って良いのかな?」


キョロキョロしながらひとつの席に腰を下ろす。

並べられた席と目の前には大きな黒板。

後ろには縦長のロッカーが5つ置かれている。

それ以外には特に特徴のない部屋だった。


「ここがこれから学ぶ教室かあ……うわっ!!!」


部屋を観察していたペンタの視界に、突然人の顔が入り込む。


「大丈夫か?」


椅子から倒れたペンタに手を差し出す男。


「は、はい……」


その手を取り立ち上がる。


「えっと、生徒……ではないですよね?」


男は、先ほどのクラス分けで見たKの生徒の中の誰でもなかった。

ボロボロの髪に気だるげな瞳。

じっと見れば若そうに見えるが、清潔感のない格好のせいで結構な年上に見える。


「ああ、俺はここの担任だよ」


「へ!?先生!?」


他の生徒たちよりも早い担任の登場に、驚くペンタ。


「俺仕事遅そうに見えるだろ?こう見えて40分前行動を志しているからな」


「40分は早すぎませんか……?」


(まさかそんな前からここにいたの?いや、でも教室に入った時は確かに私1人だけだったはず)


「1番乗りのお前には褒美をやろう。何が良い?」


「え」


突然の問いにペンタは固まる。


「……何って、何でも良いんですか?」


「ああ。なんでも」


「んー、じゃあ。先生の魔法を教えて下さい」


(これは挑戦しすぎたか……?)


魔法を教える事を嫌う人がいる中、教師の魔法を事前に知っておく事は後で何かしら有利になるだろうとペンタは考えた。


「あー、俺の魔法な」


グサッ


「え?」


ドサッ


「は!?なんで!?ちょっと!大丈夫ですか!?」


担任の腹には懐刀が刺さっている。

他の誰でもない。

自身で刺したのだ。


「……あれ、私何で床に膝ついてるんだろ」


ペンタは立ち上がる。


「えっと、あ、そうだ。席に座って待とうとしたら転んだんだっけ?なんで?私鈍臭すぎない?」


ペンタは再び席に座る。


「わっ」


「ひい!!!!!!」


突然目の前に現れた男に驚き、ペンタはまた転げそうになる。


「へ……あ!先生!魔法!!何で私忘れて……。いやいや、ていうか貴方怪我してません!?大丈夫ですか!?」


男の腹を見るが刃はおろか、血すら出ていない。


「あれ?もしかして、これが先生の魔法?」


「ああ。死ぬと人の記憶から自分の存在を消す事ができ、認知もされなくなる魔法だ。最も、自死した時しか発動しないがな」


「そんなめちゃくちゃな魔法が……」


「そうか?俺は割と気に入ってるぞ。人を脅かしたい時にうってつけだ」


「そんな使い方絶対やめて下さい!色んな意味で心臓に悪すぎますよ……」


「まあ、痛みは普通に感じるしな。でも、実はこの魔法には他の使い道もあってな……」


ガチャッ!


「おはようございます!!」


勢いよく扉が開かれ入って来たのは、爽やか青年だった。


「はい。おはよう」


「どうも……」


「あれ?もしかしてタイミング悪かったかい?」


「いや。めちゃくちゃ良かったよ。まあ、席に座りな」


(あ、話の続き無かった事にされた……。まあいっか)


ガチャッ


「失礼します」


挨拶をして入ってきたのは真面目な眼鏡男子だった。


「……」


その後ろからツインテール女子が入ってきた。


「おー。揃ったみたいだな。ま、皆んな座れ」


全員席に着いたのを確認してから、担任が黒板に文字を書く。


「俺の名はナナシだ。これから2年よろしく頼む」


全員揃ってバラバラと頭を下げる。


「んじゃあ。クラスが決まって全員集まったらする事はひとつだよな」


「自己紹介ですね!!」


「そうだ。と、言いたいところだがまずお前らには付いてきて貰いたい場所がある」


「付いてきて貰いたい場所?どこですか?」


眼鏡男子が質問をする。


「まあ何も聞かず付いてこい」


全員顔を見合わせて、教室を出るナナシの後を追う。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……ナナシ先生。ここは一体?」


目の前にある看板を見て、ペンタは思わず確認してしまう。


「見ての通り飲み屋だ」


「いや!見ての通りじゃないですよ!何処に行くのかと思えば、生徒を連れて飲み屋なんて!」


「そうですよ。先生。僕たち年齢は揃っていませんが、少なくとも僕とこの子は未成年ですよ?」


眼鏡男子がツインテール女子をチラリと見る。


「あのなあ。飲み屋だからって酒ばかり出ると思うなよ真面目くん?炭酸抜き炭酸水とかあるぞ?」


「それただの水ですよね?」


「まあ良いから良いから付いておいで」


ナナシは生徒の意見を無視する。


「にしても、スクオーラの中に飲食街があるなんて……」


教室を出た後、ナナシに付いて階段を登り適当な扉に入ると、多種多様な飲食店の集まる街道に繋がっていた。


「詳しく言うとスクオーラの中ではないんだがな」


そう言って店の扉を開けると、賑やかな声と美味しそうな匂いがペンタたちをまとった。


「へい!らっしゃい!お、ナナシさんじゃあないですか!今日は3階ですか?」


「おう。今使えるか?」


「どうぞどうぞ!今日は客しか来てないんで!」


「では失礼する」


「あいよー!」


話し終えるとナナシは店の奥には行かず、手前の階段に向かった。


「こっちだ」


(客しか来てない……?どういう意味?)


階段を登り3階につく。

そこはひとつの長い廊下と、奥に1つの扉しかない不思議な場所だった。


「スクオーラの入り口に似てますね」


「おっ、良いところに気づいたな真面目くん」


奥まで歩き、扉の前に来る。


「さっ。楽しむぞ」


ナナシが扉を開ける。


「わ!!!」


1番に目に入ったのは、大きな観覧車だった。


「遊園地!!!?」


「正解」


入ると、そこは沢山のアトラクションで溢れた遊園地だった。


「これは……初めて見ました。まさか存在していたなんて」


眼鏡男子が、眼鏡を拭ってまた掛け直す。


「大体の奴らが絵本で目にした事があるだろう。おとぎ話の中だけに存在する遊園地。それがここだ」


大きな観覧車、ぐるぐると優雅に回るメリーゴーランド、可愛らしいカップが動くコーヒーカップ、興奮と恐怖を一度に味わえるジェットコースター。


「ここはスクオーラが?」


ペンタは質問しながら、近くをゆっくり動いている動物型の乗り物に触れる。


「そうだ。スクオーラが再現した遊園地だ」


「なぜに飲み屋の3階?」


「それは学長の趣味だ」


「先生!ここで今から遊んで良いという事でしょうか!」


「そうだ。ただし、普通には遊べない」


「というと?」


「ここの乗り物は全て魔力によって動いている。そして、アトラクションによって魔力を吸われる量は変わる。つまり、自身の魔力次第で楽しめるアトラクションが限られるって訳だ」


「それはつまり、自身の魔力限界を知らずに適当なアトラクションに乗ると、魔力切れで倒れてしまうという事でしょうか?」


「そういう事だ」


「でも乗ってみないと自分の魔力値なんて分からないですよね?」


ペンタが聞く。


「んや。それ自体は割と簡単に知れる。ただ、今回はそれを知った上で自分よりレベルの高いアトラクションに乗ってもらう」


「え!?なんで!?危険じゃないですか?」


「ナナシ先生。もしそれで誰かが倒れたらどうするんですか?」


「大丈夫大丈夫。ここには回復魔法を持っている奴がもうじき来る。そいつに治して貰えば良い」


「回復魔法?僕は治癒魔法なら耳にした事がありますが、同じではないのですか?」


「そのふたつは似ているようで全くの別物なんだよ」


背後から声がし振り向くと、足元にガマカエルが座っていた。


「カエル?」


「先生!今このカエルが喋ったように思うのですが!!」


「ガマエル。急に現れるのはやめて欲しいっていつも言っているだろ」


ナナシがカエルを両手で拾い、肩に乗せる。


「お前にだけは言われたくないって、ワタシだっていつも言っているだろう」


「え、もしかしてこのカエルが回復魔法の……?」


ペンタは恐る恐る手を伸ばす。


「そうだよ。ワタシが回復魔法使いのガマエルだ。お嬢さん、背中を撫でるのはよした方が良い。ワタシの背からは毒が出ているからね」


「毒!!?」


慌てて手を離す。


「で、ガマエルさん。治癒魔法と回復魔法の違いを教えて頂きたいのですが」


眼鏡男子は言いながらメモ帳を取り出す。


「簡単な事だよ。治癒魔法は全てを完治させる魔法。回復魔法は元の状態に戻す魔法だよ」


「ん?それって違うんですか?」


ペンタには違いが分からなかった。


「なるほど。治癒魔法は回復魔法の完全体って事ですね。何でも治せる訳ではなく、その場で負った傷しか治せない」


「えっと……。病気は治せないってこと?」


「んーむ。もう少し分かりやすく言うと、例えば元々病弱だったやつがいて、そいつが怪我をしたとする。治癒魔法なら怪我も病気も治せるが、回復魔法だと怪我しか治せないんだ」


「あ、なるほど!やっと分かりました」


「まあ。そういう事だ。少なくとも、ここで倒れた時はちゃんと治してもらえるから安心しろ」


「任せなさい」


ガマエルが胸を張る。


「じゃ、お前らここに立て」


「また突然ですね」


4人は言われるがまま横一列に並ぶ。


「じっとしてろよ」


ナナシが手を伸ばすと、4人の胸元に小さな青い火がいくつか現れる。


「わっ」

「これは?」

「先生!触ってみても良いでしょうか!」

「……」


「じっとしてろって」


ポツポツと4人それぞれ違う数の火が現れて止まる。


「よし。お前ら、これが魔力値を表す火種だ」


ペンタは火をそっと見つめる。


「火種?これが魔力値?……綺麗」


「今回は俺がお前らの中に魔力を流し込んでそいつを無理矢理出したが、次からは自分で出せるようになれよ。魔力を体の隅々まで渡らせれば出す事ができる。練習しておくように」


「こんな事ができるんだ……。まだまだ知らない事ばかりだなあ」


眼鏡男子がアトラクションを見る。


「先生。これが魔力値って事は分かったのですが、アトラクションに必要な魔力はどうすれば知れますか?」


ペンタがチラッと眼鏡男子の胸元を見ると、火種が10並んでいた。


(え、この子だけ多くない?私が4で、あの爽やかな子が6、もう1人の子も6……)


「お前は生徒にしちゃちと優秀過ぎるみたいだな。……まあ、良い。それはアトラクションに触れれば分かる」


眼鏡男子が、まだ近くを動いていた動物型の乗り物に触れる。

すると、乗り物の上に2つの火種が現れる。


「あれ?でもさっき私が触った時は出なかったですよ?」


ペンタもここに来てすぐに触っていたが、その時火種は出なかった。


「お前が火種を出してなかったからな。良いか。火種ってのは、お互いに見せ合うものなんだよ。だから相手のを知りたければ、求めてる側が先に見せないと見る事はできない」


「なるほど……」


「じゃあそろそろ始めるぞ。今回はお前らの実力を知る為の時間だ。同じ数以上の火種を持つアトラクションに乗るように。火種は俺が解かない限り出続けるから安心しろ。倒れたらガマエルが助けに入る、気にせず頑張れよ。これが上手くいけば火種を増やす事も可能だからな!応援してる」


ナナシが首に下げていた笛を吹こうと口に近づける。


「ちょっと待って下さい!」


「あ?なんだ?」


「僕たちまだ自己紹介をしていないです!お互いを知り合ってから挑む方が、何かと良いのでは!」


「あー。そうだったな。んじゃ、簡潔に自己紹介していけ。あ、魔法については言わなくてもどっちでも良い。ペンタからな」


「先生、私の名前知っていたんですか……」


「そりゃあ担任だからな。4人の情報はもう頭に入れてる」


「流石ですね」


ペンタは咳をし、3人の顔を見る。


「ペンタです。20歳です。えーっと、歌が好きです。魔法は星魔法で、ただ星を降らせるだけのやつです。これからよろしくお願いします」


軽くお辞儀をする。


「ペンタ。出身地はどこです?」


(いきなり呼び捨て!?この眼鏡くん意外とチャラい……?)


「えー、出身地に関してはノーコメントで……」


「そう言われると逆に気になるな!!」


「ええ!?」


「おい、お前ら。人にはひとつふたつ秘密があるもんなんだよ。魔法と同じように、人の敏感なとこは察してやれ」


「そうですね!ペンタ君、悪かった!」

「すまない……」


2人が謝る。


「良いんですよ」


「じゃあ次は僕だね。名前はベクター。年齢は18。趣味は読書。あとはノーコメントで」


「僕はカールだ!歳は25!好きな事は運動とカラオケかな!魔法は水魔法だが、水溜まりに波紋を起こすくらいしか今はできない!出身地はゴーガラだ!よろしく!」


(ゴーガラ……。確か水魔法使いが産まれやすいって噂の)


ペンタは凛に教わった事を思い出す。


「んじゃ、みんなよろしくという事で始めようか」


(ん?)


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


「なんだペンタ」


「まだ1人残ってます」

「ずっと無口な君だね!」


みんなの視線がツインテール女子へ注がれる。


「あー。その子の情報は聞き出せないぞ」


「え?なんで?」


ナナシが視線を遮るように立つ。


「それがこの子の魔法なんだよ。自分の事について一切情報を与える事ができない代わりに、相手の情報を全て知る事ができる魔法」


「そんな魔法が?てか、それならKよりも上のクラスにいけたんじゃ?」


「逆なんだよ。戦闘において会話ができないって事は、結構な足手まといになる。更に自分の事も話せないとなると、魔法によって得た情報を誰かに伝える事すら不可能だし味方から信頼を得る事は難しい」


ベクターが答える。


「そんな……。ん?でもそれならどうして、先生やベクターはこの子の魔法や年齢を知っていたの?」


「対価だよ」


「対価?」


「言葉の一文字を失う代わりに、その時だけ話す事が可能になる。つまり、ずっと会話していると話せる言葉が何もなくなるって事。スクオーラに入るにはどうしても身分が必要なんだよ。それを証明する為に一度、俺に話してくれた」


ナナシが悲しそうに言う。


「僕はその子が落とした生徒手帳を見たんだよ。教室に向かう途中で拾ってね。チラッと見えちゃったんだ」


「……」


ペンタはナナシに聞く。


「この子の名前は?」


ナナシは言って良いか?と本人に確認をする。

それに答えるように彼女は首を縦に振る。


「リンリンだよ」


「リンリン……。何だか難しい魔法だけど、きっといつか貴方を助けてくれると思う。これからよろしくね」


リンリンは首を縦に振りペンタと握手をする。


「じゃあ始めるぞ〜」


ナナシが笛に口をつける。


ピーーーーーーーーーー!



























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