7 クラス分け
「でっか……」
スクオーラの入り口まで来て、ペンタは気づく。
門を通る前に見たよりも、建物自体が遥かに大きく見える。
ペンタは首が折れそうなくらいに空高く見上げる。
「どうなってんだろ?これも魔法なのかな?」
「ありゃ?お嬢さん、前に会った事ないかい?」
聞き覚えのある声にペンタは振り向く。
白髭にシルクの布帽子を被った老人が、皮でできた鞄を大事そうに抱えて立っていた。
「あ!門番と揉めてたマッチョ爺!」
「はっは!やはりあの時のお嬢さんかい。随分、見た目が変わっていたので人違いかと思ったよ」
ペンタはこの1ヶ月で身体に程よく肉がついた。
凛に教わり基礎的な一般常識も頭に入った。
服も新調して雰囲気はかなり変わっていた。
「へへ。お爺さんも、その帽子どうしたの?」
「これは古くからの友人に貰ったんだよ。どうだい?似合ってるかい?」
「うん!サンタさんみたい!」
「それは、褒めておるのか?……まあいい。それより、お嬢さんもここにおるって事はスクオーラに入学するのかい?」
「そうだよ。色々あって、警備隊を目指してるんだ」
「警備隊か……。実は、ワシも今日からここの生徒なんだよ」
「お爺さんも、警備隊に入りたいの?」
「ワシは魔法について学びたい事が山程あってな。この先、目指している未来の為にはここに入る事が最善だったんだよ」
「お爺さんも、やりたい事があるんだね。お互い頑張ろうね!」
「うむ。ワシはルージーという」
ルージーが手を出す。
ペンタはその手を握り名乗る。
「私はペンタだよ。ルージー、これからよろしくね!」
「よろしく頼む」
「それよりさ、私とルージーは今日から入学だけど他にはいないのかな?」
2人はスクオーラの入り口まで来ていたが、誰も見当たらない。
「まあ。とりあえず入ってみるかい」
「そうだね」
入り口の扉を開くと、長い廊下が目の前に伸びていた。その先がガヤガヤと賑わっているのが聞こえる。
「変わった作りだ」
「あの先、人がいそうだね」
廊下を進むと、地面が途切れた。
「なにここ!」
目の前に広がるのは、沢山の階段と本棚、そして扉。
全ての階段は動き、本棚から出ている本は飛んでいる。
「流石スクオーラだな。賑やかにしていたのはどうやら人ではなかったらしい」
「これも全部魔法だよね?」
「うむ。……ここには相当腕の良い魔法使いがいるようだな」
「ね、ルージー。私たちどこに行けば良いんだろう」
「さてなあ。あの階段にでも乗ってみるかい」
2人の目の前にひとつの階段が近づこうとしていた。
それでも、2人と階段との距離は数メートルはある。
「え!どうやって?!」
「ふんっ!!!!」
ルージーの体が大きくなる。
あの時に見たルージーの魔法だ。
「ワシに掴まれい」
ペンタは慌ててルージーの腰を持つ。
迫ってきた階段は、2人の目の前を止まる事なく通り過ぎようとする。
「そいやあ!」
「いやあーーーーーー!!!!!!!」
ドスンッ
恐る恐る目を開けると、階段に無事足がついていた。
「落ちるかと思った……」
「ふん。ワシ、凄い?」
「とても!ありがとうルージー。助かったよ」
「あの時の恩返しだよ。ペンタのおかげでワシは友人に会う事ができ、この素敵な帽子を貰う事ができた。感謝しておる」
「そんなっ。私はただあの門番に腹たっただけで……」
「君のその優しさは、きっとこれからも確かな強さへと繋がるだろう」
「ルージー……」
ガタンッ!!
「わ!!!」
「どうやら正解だったようだ」
階段は”0”と書かれた扉の前で止まった。
「なんだか緊張しちゃうね」
ペンタは扉のノブを掴む。
「ワシとペンタならきっと大丈夫だよ」
ペンタは頷き、ノブを回す。
ガチャッと音を立てて扉が開く。
「ひっ!!?」
扉を開けて1番にペンタの目に入ったのは、人の視線だった。
10人ほどの集中的な視線の中で、ペンタは恐怖に襲われた。
ファンタムに来てから、人と話す機会が増えてだいぶ慣れたものだろうと勘違いしていた。
実際は数人相手のみで、大人数となると緊張でどうしようもできなくなった。
そんなペンタを見かねてルージーが口を開く。
「ここが教室かい?」
すると、1人の女が立ち上がり2人の前へ来る。
上がった目尻が特徴的な女だった。
「ここはクラス分けの為に集められた生徒が来る教室よ。貴方たちは、新入生?」
「そうだよ。恥ずかしながら、何も分からないままなんだい。色々教えて貰えると助かる」
女はふんっと鼻で笑い、自分の長い黒髪をはらう。
「合格発表の後、書類が届いたでしょう?そこに書いていなかった?入学初日はゼロの部屋にて待つべしって」
「いや?合格発表は聞いたが書類は届いていないぞ」
「……私も知らない」
少しずつ慣れてきたペンタも会話に入る。
「あらそう?おかしいわね。スクオーラ側の不備かしら……」
女は先ほどの態度とは一変、雰囲気が変わる。
「ワシらに何か不満があった訳ではないのかい?」
「私はただ、与え教えられたものを忘れる様な人間が許せないってだけよ。そうじゃないのなら問題ないわ。どうぞ、お好きな席に。ちなみに私はハルよ。よろしく」
「ワシはルージー」
「私はペンタ」
2人はハルと握手をすると、1番手前に空いていた前後2つの席へ腰を下ろした。
2人が座ったのと同時に、教室にいた新入生たちがそれぞれお喋りを再開する。
「お姉さん、多少見た目がマシになったみたいだね?」
ペンタに声をかけてきたのは、前にスクオーラの前で揉めかけた生意気な少年だった。
「あんた!よりによって同じ新入生だったの?」
「それはこっちのセリフだよ。石を人に蹴り付けるような人がスクオーラ生だなんて……」
「あれはもう謝ったじゃん。器の小さい男の子はカッコ悪いよ?」
「お姉さんこそ。これくらいの人数相手にビビってちゃあ、まともな警備隊にはなれないんじゃないかな?」
「くっ!!!!」
「まあまあ。ちょい少年よ。彼女が警備隊を目指しているって何故分かったんだい?」
ルージーが口を挟む。
「ここに来る人は大体それ目当てでしょ?」
「それはどうかな。君もそうなのだろうが、ワシの目的は違う。人それぞれ生きる理由が違う様に、ここにいる目的もそれぞれだろう。それで相手の全てを知った気になるのは間違いだと思うぞ」
(ルージー……)
ペンタは泣きそうになっていた。
「別に、そんなんじゃないよ。……もう良い。先生が来たらきっとレア度見直しの結果が伝えられるだろう。せいぜいビビりながら待ってると良い」
そう言うと、少年はペンタにあっかんべをして席に戻った。
「ペンタも許してやれ。きっとそんなに意地の悪い子ではないと思うぞ」
「……うん。ありがとう」
ガチャッ
「はーい。皆んな静かに〜。これからレア度の発表しちゃうよ〜」
「ん?」
ペンタは驚いた。
堂々と教師の顔をして入ってきたのは、ペンタよりもはるかに小さな少女だったからだ。
(10歳くらいにしか見えないけど……)
「あのー」
「ん?なーに?質問かな?聞いてあげましょう」
後ろの席でダルそうに手を挙げた少年。
見た目で言えば不良少年と言っていいだろう。
金髪に耳と口にピアス。
チラリと見える尖った歯がより彼をやんちゃそうに見せていた。
「あんたが先生なの?ガキにしか見えないんだけ……」
一瞬だった。
瞬きの間に少年はお腹を抑えて倒れていた。
「は?なに!?」
「今の見えた!?」
「痛そう……」
その姿を見て新入生全員がパニックに陥るのは早かった。
「魔法使いに年齢の話をするのは野暮ってもんだよ?でも、リーちゃん優しいから今回はそれで許してあげる。もう2度と言わないようにね?金パ少年」
「くっそ……!!」
少年はお腹を抑えながら席につく。
自分の事をリーちゃんと呼んだ少女は、前の黒板に文字を書いていく。
「メメイド・リー。それが貴方たちの面倒を任された先生の名前よ。リーちゃんって呼んでね」
「リーちゃん先生、ひとつご質問よろしいでしょうか?」
ハルが手を挙げる。
(あれを見た後でよく質問できるな……)
「いーよーん」
「スクオーラでは、レア度と同じ様にA、J、Q、Kの4つのクラスに分けられる事は聞いています。もちろん、それぞれ教師がつくことも。リーちゃん先生は今回の発表だけでなく、担任としてもどこかのクラスを受け持つという事でしょうか?」
その時、ハルの質問を聞いた新入生全員が否定を期待した。
((違うって言えー!!!))
「正解〜!少なくともこの中の1人は私の生徒になるね〜」
((えーー……))
(1人……?)
ペンタはリーの言葉に疑問を覚える。
「さてさて。時間は無限ではないからね。そろそろ発表するよ〜」
そう言ってリーは青色に光る箱を出す。
「皆んなには合格してすぐレア度の見直しに行って貰ったと思う」
合格発表後、ペンタも役所まで見直しの書類を書きに行っていた。
「レア度を調べるにあたって、基本は本人が魔法について知っている情報を書類に書き、それを役所に提出。その後、役員の前で実際に魔法を見せてから結果を聞かされる」
生徒たちは頷く。
「しかし、今回は少し違ったと思う」
「書類を書いただけで帰されました」
生徒の1人が言う。
「そう。今回は今からここで魔力を出して貰い、それからレア度を発表させて貰う」
リーが箱の上側を見せる。
ポカリと穴が空いている。
「これから皆んなにはこの中に腕を入れて、魔力を出して貰う。その時箱によってクラスを振り分けられる。それと同時にレア度が決定するという仕組みだよ」
「それだと書類書いた意味ってあるんですか?」
「もちろんあるよ。君たちには後で生徒手帳を渡す。そこに記入する情報として事前に知っておきたかったからね」
それじゃあと、リーが1番前列の窓側に座っている生徒を指差す。
「そこから後ろに、その後横にいき前にいく順番で出て来てもらう。では、早速君から」
1番最初に指名された男が立つ。
眼鏡をかけていて、髪は七三分け。
ペンタから見て、真面目そうが第一印象の男だった。
「では、僕から失礼します」
男は頭を下げてから箱に腕を入れる。
「さてさて。まずはどこかな?」
リーはどこか楽しそうにしていた。
「ん?この色は……」
深く青い光が歪み、優しい緑へと変わる。
そして、箱には大きくKの文字が浮かぶ。
「君はKだね」
「Kか……」
男は残念そうに席に戻る。
「次〜」
「あの……。浮かぶ文字がクラスとレア度を表している事は分かるのですが、色は何か関係あるのでしょうか?」
次に前に出て来た大人しそうな女子が聞く。
「同じレア度でも、それぞれ細かい強さの違いがあるんだよ。それを表しているだけだから、そんなに気にする事ではないよ〜」
「なるほど……」
箱に腕を入れると、次は燃える様な赤色にJの文字が浮かんだ。
「私が、J……」
「この箱は役所の奴らよりしっかりしているから、自信持ちなよね」
「は、はい!」
「はい、次の人〜」
「はい」
ハルが前に出る。
腕を入れると箱の色が黒色に変わる。
「黒って何か嫌ね……」
そこに浮かぶ文字はQだった。
「まあ、私の魔法なら妥当かしら」
次に出て来た人物は、先ほどリーによって懲らしめられた少年だった。
「もう何もしねえよな……?」
少年はリーに怯えながら箱に腕を入れる。
「さっきは君がリーちゃんを馬鹿にしたから手を下しただけで、君が何もしてこないならリーちゃんも何もしないよ」
箱の色が変わる。
最初の色と同じ、深い青色。
浮かぶ文字はA。
「A!?」
「あの子が?」
「かっこいい……」
「どんな魔法だ?」
「ええい、静かにしなさい!Aが特別な事は周知の事実だけれどこの子はこの子。特別扱いはするんじゃないよ」
「リー子……」
少年は感動したようにリーを見つめる。
「リーちゃんと呼びなさい!」
「やれやれ。本当落ち着きのない子たちだね。僕の結果を見てまた騒いじゃあいけないよ?」
堂々と出て来て箱に手を入れる生意気少年。
「んだ?こいつ」
金髪少年が睨みつける。
箱の色が変わり始める。
(ふん。続けてAが出るなんて誰も予想できないだろう。僕はなんて罪深い男なんだ)
色は黒く変わり、Jの文字が浮かぶ。
「何故!!?」
少年は驚いて箱から腕を出す。
「Aだった者がJに落ちるなんて、ここスクオーラではよくある事だよ〜」
「そんな……」
少年は気が抜けたように席へ戻る。
(何か可哀想に思えて来たなあ)
ペトラはそんな少年を憐れみ始めていた。
次に箱に腕を入れたのはツインテールが特徴的な女の子だった。
箱の色は黒く変わりKが浮かぶ。
「……」
少女は何も言わず席に戻っていった。
「はいはい。どんどんいくよ〜」
次に出て来た人は爽やかそうな青年だった。
「僕の番だね!」
箱の色は赤く燃え上がりKの文字が浮かぶ。
「先の君と眼鏡少年と同じだね!よろしく!」
「はあ、どうも」
「……」
青年は同じKの文字が浮かんだ生徒に挨拶をしながら席へ戻った。
「次わたし〜」
(え、何あの子。かわいいっ!)
どこか楽しそうに出て来た女は、ペトラが出会って来た中で群を抜いて魅力的な人物だった。
(サルビアと並ぶくらいじゃない……?)
箱の色は、初めて出る黄色だった。
「わっ、黄色?なんだか素敵〜」
浮かぶ文字はQ。
「あら。そこのかわい子ちゃんと同じ?嬉しい〜」
「……どうも」
女はハルに意味ありげな視線を送り、席へ戻る。
「ん?次の人〜出ておいで」
呼ばれるまでずっと席に座り込んでいた少年。
立ち上がり箱の前へ出る。
「……だから……大丈夫……でも」
ぶつぶつと独り呟きながら箱に腕を入れる。
色が変わり緑に浮かぶ文字はJ。
「……なんとか……良かった」
少年はまた呟きながら席へ戻っていった。
「次、僕」
「君はまた早いね〜」
リーの言うようにいつのまにか、箱に腕を入れていた少年。
猫耳の付いた黒いフードを被っている。
「あ、緑だ」
色が変わりQの文字が現れる。
「ありがとうございました」
少年は箱にぺこりとお辞儀をして戻っていく。
「ウチね」
三つ編み眼鏡の気の強そうな女が、箱に腕を入れる。
「Qか……」
女は赤い箱に浮かぶ文字を確認してさっさと席へ戻る。
「次、ワシか」
「頑張れルージー!」
「任せい!」
ルージーが箱に腕を入れる。
黄色に光った箱にはJの文字。
「ルージーさすが!」
「ふんっ!」
腕を盛り上げて見せるルージー。
「はーい。最後の君」
「ついに私の番……!」
ペンタは高鳴る胸を抑えながら箱の前に立つ。
(Aってまだあの人だけだったよね……?)
ペンタはちらっと金髪少年を見る。
(いや。私の魔法がAでない事は分かりきってる。だけどせめてJかQであって!!)
腕を勢いよく箱に入れる。
色が黄色へ変わる。
(黄色……。文字は……)
浮かぶ文字は
「う、K……」
ペンタはとぼとぼと席へ戻る。
「ペンタ。魔法はそこだけに強さが秘められている訳ではないぞ」
「うう、ルージー……」
ルージーに励まされる。
(凛さん。私QにもJにもなれなかったです……)
「よし!これで全員終わったね!」
リーは箱をしまう。
「この後すぐにそれぞれの教室へ向かってもらう。担任が来るまで待機しているように!じゃあ、リーは先に行くね〜!」
リーはそれだけ言うとさっさと出ていってしまった。
「おい!待てよリー子!俺だけ1人なんだけど!?」
金髪少年はリーを追いかけて部屋を出ていく。
「とりあえずルージーとはここでお別れだね」
「うむ。だが同じスクオーラ生だ。すぐに顔を合わせる機会はあるだろう。それまでお互い頑張ろう」
「うん!」
2人は握手をして席を立つ。




