6 始まり
「婚約が関係しているって、どういう意味よ?」
魔王がリモコンをいじる。
「実はね、僕とミリオさんで父を倒す作戦をねったんだ。まあ、他にも協力者はいるんだけど。で、そこで君たち2人の魔法が使えるって話になって、でもこの城に入れるのは父に許可を貰えた人だけだから、婚約という形を取るしかなかった」
モニターに文字が並ぶ。
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倒したい
魔王 → 父(先代)
人を魅了する力 力を最大限引き出す力
⇩
寿命を奪う力 (他人にのみ)
(父の力のお陰)
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「ここに書いてある通り、僕の力は父によって管理されている。でも、父の管理を脱してこのままの力が使えたなら、きっと先代魔王の父ですら倒せると思うんだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!!」
サルビアが話を止める。
「ん?どうしたの?」
「情報があり過ぎてパンクしそうだわ!それに、この婚約が本当は嘘だったっていうの?」
サルビアは混乱していた。
魔王が頷く。
「何よ……。お父様は皆んなを助ける為にあんな嘘を?だって、それなら私に教えてくれたって良かったじゃない……」
サルビアの頭の中では、父親の顔が浮かんでいた。
いつからか、笑顔を見せなくなっていたあの顔を。
「ごめんね。それは僕がミリオさんに頼んだんだ。父には沢山の手下がいる。そんな相手を敵にしようっていうんだから、秘密はなるべく少人数だけで守っていたかったんだ」
「それでも……!!」
サルビアの瞳からは涙が溢れていた。
小さい頃は父親の事が大好きだった。
逞しく、優しく。何よりも、サルビアを大切にしてくれる父親の愛情に感謝していたから。
それなのに、突然サルビアの人生を管理するようになった父親に対し、裏切られたように感じていた。
事実、それらは全て嘘でサルビアの父はどこまでも優しく勇敢だったのだ。
「サルビア……」
凛はサルビアの頭を撫でる。
そして魔王を睨む。
「俺は、サルビアのマネージャーとして雇われてからのミリオさんしか知らない。けど、あんな扱いを受けてもサルビアはずっとミリオさんの事を尊敬していたのを知っている。……お前、家族の大切な時間を奪ったんだぞ」
「……分かっているよ。その恨みも受け取った上で、責任は取るよ」
魔王は泣いているサルビアの横で膝をつく。
「サルビア、ごめんよ。人々を救うのと君の人生を天秤に掛けたのは僕だ。だから、これから頼もうとしている事を断ってくれたって構わない。ただ、もう少しだけ僕の話を聞いてくれないかい?」
それを聞いてサルビアは顔を上げる。
「……後でお父様に会わせて」
「分かった」
魔王は立ち上がり2人に頭を下げる。
「今回無理やり2人を巻き込んだ事はすまなかった。でも、僕の父は絶対このまま生かしていてはダメなんだ」
「なんだってお前がそこまでするんだよ?昔、人間に虐められていたんだろ?……」
魔王が頭を上げ、何かを思い出すように宙を見る。
「僕ね、前に人に助けて貰った事があるんだ。その人の事を想うと、父の命令に従っているのが嫌になってしまってさ。それなら、皆んなが笑ってられる世界を作りたいって思ったんだ」
「お前本当に魔王か?あまりに……」
魔王は嬉しそうに凛の顔を見る。
「優しい?」
「そうだな……。なんか、今まで悪かったな」
無邪気な笑顔を見せる魔王を見て、今まで抱いていた誤解を改めて謝る凛。
「良いんだよ」
「でも、倒すってどうやって?」
「そこに俺とサルビアの魔法が関係しているって事だろ?」
サルビアの問いに凛が答える。
「流石凛くん」
すると、魔王は小声で2人に話す。
「あのね、実は父の力を介さずに魔力を最大限まで引き出す方法があるらしいんだ」
「魔力増加とは違うのか?」
「それよりも強い力だよ。ただ、その方法を書いてある本がどこにあるか分からない」
「なんで分からないのよ」
「この話自体人づてで聞いただけだからだよ。で、それを探しに行きたいから2人を選んだの」
「どういう意味?」
「本が安全な場所にあるとは限らない。だから、僕が探しに行く。で、その間父から命令があると思うんだ。その時、サルビアの幻影魔法で僕の振りをして貰って、もし人を傷つける事を避けられなかった場合に、凛くんの治癒魔法で治して上げて欲しいんだ。もちろん、父にバレないようにね」
「……無茶よ」
「……無茶だな」
2人は魔王の案を蹴る。
「そこを何とかお願い!これしか方法はないんだよ。2人に会えたのも、2人が一緒にいた事も運命だと思ってさ。頼むよ……」
魔王は寂しそうな目で2人を見る。
「……もしもの話だけれど、それで本当に上手くいったら皆んな笑顔になれるのよね?」
サルビアは真剣に魔王の目を見つめる。
「もちろん。それは僕が約束する」
「分かったわ。せっかくお父様が私に嘘ついてまで準備してくれた作戦だもん。やってやるわ」
「サルビアがやるなら、俺もやるよ」
凛も同意する。
「2人ともありがとう。じゃあ、早速明日から僕がいない間は頼んだよ。もし、危険な時はこれを使って逃げて」
そういうと、魔王はポケットから指輪を2つ出し、凛にその1つを渡す。
紫色の宝石が埋め込まれた指輪で、凛の指にぴったり入った。
「これは何?」
サルビアが凛の指輪を覗く。
「危険な時に一度だけ、自分を安全な場所までテレポートしてくれるレア物だよ」
「逃げる時って、作戦がバレそうな時とかだろ?逃げたら裏切りを肯定する事になる。それに追われる可能性だってある。使って大丈夫なのか?」
「それは大丈夫!あの人もそこまで暇じゃない。本当はね、父を裏切って手を出してしまう輩がたまにいるんだ。皆んな失敗して逃げたり、殺されたりするけど、逃げた人を追うことは今まで一度も無かったよ」
「何で追わないの?」
「毎回追ったってキリがないからじゃないかな?」
「なるほどな。で、俺のはこれで良いけど、サルビアのは?」
魔王は手の中に残っている1つを見せる。
「これは式の時に渡すよ。その方が怪しまれにくいし、この指輪の力を知っている父が見ても、僕が2人にお守りとしてあげてるんだって言えるからね」
「なるほどね……」
「じゃあ、話はまとまったね!後はこの後の式の説明だね」
その時、サルビアが魔王に小指を出す。
「お父様は?」
「あぁ、そうだったね。多分そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」
ドンドンッ
扉を叩く音がする。
「どうぞ〜」
魔王が返事をすると扉が開かれ、そこにはサルビアの父親が立っていた。
「……もう話したのか?」
サルビアの父、ミリオは魔王に聞く。
「うん。今しかタイミングがないからね。ミリオさん、お疲れ様。父に挨拶に行っていたんでしょ?大丈夫だった?」
「ああ、何事もなく終わったよ。息子が結婚するんだって機嫌が良かったよ」
「はは。照れちゃうな」
(今まで自分の結婚を喜んでくれている人を倒す計画を立てていたのよ?メンタル強いわね……)
ミリオがサルビアを見る。
「今まですまなかった……」
それだけ言うと部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待って!私もお父様に謝りたいの。今まで誤解していてごめんなさい。でも、次からは家族なんだから相談くらいして欲しいわ」
ミリオは驚いた。
まさか、娘の方が謝るなんて思ってもいなかったから。むしろ、今回事実を説明した事で完全に嫌われたと思っていた。
サルビアは立ち上がり、勢いよくミリオの胸に飛び込む。
「もうこれからは1人で抱え込まないでよ」
サルビアの涙がミリオのスーツに染みる。
「……分かった」
サルビアの肩に置いたミリオの手は、震えていた。
手だけじゃない。久しぶりに飛び込んだ父の胸元から、震えているのが伝わる。
娘を騙し、嫌われる覚悟を持っていたとはいえ、長年溜め込んできた寂しさが一気に溢れそうになっているのだろう。
「……じゃあ、そろそろミリオさんも加えて式の説明をするね」
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「やばい……。緊張で今すぐにでも逃げ出したい!」
「ペンタさん。受かったからには頑張りましょう」
「凛さんは良いですよね。落ちたから気が楽で」
あれから1ヶ月。
2人は再びスクオーラの門前で話していた。
「何言ってるんですか!私だって試験に落ちたなりに個別で調査したりして、自分のできる事を探しますよ!」
スクオーラの入学試験でまさかの、ペンタが受かって凛が落ちてしまった。
簡単な筆記試験と面談という、普通の学校の試験と同じような内容だったのに、何故か凛が落とされた。
「難しいって聞いていたのに、全然でしたよね?」
「ええ。自己採点では最低でも9割取れていたと思ったのですが……」
「他に合格基準があったとか?」
「受験者には教えずにですか……。あり得ますね」
2人は目の前のスクオーラを見る。
「……凛さん。私、頑張ってきますね」
「お、ついに覚悟を決めましたか?」
ペンタは凛の目の前に小指を出す。
「絶対、警備隊に入ってサルビア達を見つけます。その前に必ずここを無事に卒業してみせるので、見守っていて下さい!」
凛がサルビアの小指に、自分の小指を絡ませる。
「私はそんなペンタさんのサポートができるように、必ず良い情報を見つけ出して見せます!」
2人は頷きあう。
ペンタは凛から離れ、門を通り振り返る。
「いってきます!!!」




