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5 魔王の過去

時は遡り前日の夜。


「サルビア、本当に良かったのか?」


「そう言う凛さんだって。妹さんに最後のお別れ言いに行かなくて良かったの?」


「良いんだよ。あいつはもう俺と関わっちゃいけない。サルビアを守るって決めた時に、自分と約束した事だから」


2人は雨の中、傘もささず時計塔の前の木の影に立っていた。


「サルビア」


「お父様……」


塔の”中”からサルビアの父親が出てくる。


「頼んだぞ。もう逃げないでくれよ」


「分かってるよ……。もう、覚悟は決めてきたの」


「凛よ。巻き込む形になってしまって悪かったな」


「何言ってるんですか。全部貴方とあの人が望んだ事じゃないですか」


「……そうだな」


サルビアは塔の壁に触れてみる。


「で、どうやってここに入るの?」


すると、父親は突然ズボンのポケットから小型のナイフを出して凛に向ける。


「良いか?」


「……はい」


凛は何かを察し、腕を差し出す。


「すまん」


音もなく凛の腕に刃が切り付けられる。


「お父様!!何してるの!?」


「サルビア。俺は大丈夫だから」


凛は近寄ろうとするサルビアを止める。


「凛。ここに腕を」


腕を塔の壁にピタリと付ける。

すると、赤い血が塔の苔に吸われ染み込んでいく。


「これで入れる。着いて来い」


父親が塔の壁に向かって足を伸ばす。

そしてスルリと壁に吸い込まれる足を見て、サルビアと凛は驚く。


「……サルビア。行くぞ」


覚悟を決めようと、凛が手を伸ばす。


「……うん」


その手を掴んでサルビアも後に続き、足を踏み込む。

すると突然視界が暗くなる。


「ここで待っていろ」


父親の声がする。

うっすら見える背中がサルビア達から離れて行く。


「待ってろって……。お父様は何処に行くの!?」


叫んでみるが返事は返ってこない。


「とりあえず言われた通りに待ってみるか」


「……そうね」


サルビアは不安になり凛のそばにくっ付く。


「凛さん。大丈夫?」


色白の肌に滲む血を、サルビアは優しく拭き取る。


「大丈夫。こんなのすぐ治せる」


凛が自分の血だらけの腕にもう片手をかざす。

すると、刃で負った傷がすぐに消える。

これが凛の魔法だった。

どんな傷でも治せる治癒魔法。

これはAの中でも特にレアな魔法だった。

サルビアも知ってはいたが、大切な人間が傷付くのを見逃す様な性格ではなかった。


「ここ、何処だろうね?」


辺りを見渡すが真っ暗で何も見えない。


「下手に動かない方が良い。離れるなよ」


その時。


「僕の城へようこそ」


サルビア達のいた場所に灯りが付く。

急な眩しさに目が眩む2人。


「……貴方が魔王様?」


サルビアは目を細めながら目の前に立つ男を注視するが、突然の明かりに目が慣れず、まだはっきりと姿を捉える事はできない。


「そうだよ。僕が魔王。この世界で一番恐れられている存在」


どんどん視界が明瞭になってくる。

そしてサルビアと凛の目が、目の前の人間をはっきりと捉える。


「顔を合わすのは初めてだから、一応初めましてで良いのかな?」


黒髪に長身の細身。

普通の男性と同じ見た目に、サルビア達と年齢も近いように見える。

想像していた魔王とは全く合わないその見た目に、2人は言葉を失う。


「えっと、驚かせちゃったかな?」


魔王は頭を傾げながら2人に近づいてくる。

2人は思わず後ろに下がる。


「あー……。大丈夫だよ。危害を加えるつもりは無いから」


魔王の言葉を聞いて2人はそれぞれ喋り出す。


「魔王って人間だったのか?」


「今まで聞いてきたあの声は貴方なの……!?」


「うん、人間だよ。今話している声と少し違うでしょ?これを使って話していたからね」


魔王がメガホンを見せる。


「それで声が変わるの?」


サルビアが聞く。


「変声機ってやつだね。あーーーーーーー」


メガホン越しに魔王の声が変わる。

今まで聞いてきたその声に、サルビアは不快感を思い出す。


「立って話すのもあれだし、こっちにおいでよ」


魔王が奥の大きな扉に向かって歩く。

ギギギという大きな音を出して扉は開かれた。


「どうしたの?おいでよ」


魔王が手招きをするが、2人はまだ警戒している。


「大丈夫だって。どっちみち、もう覚悟は決めてきたんでしょ?今更逃げる事は不可能だよ」


友好的だった雰囲気が魔王の言葉で一気に敵対心を仰がれる。


「……今日は籍を入れるのと、挙式を挙げるんですよね?」


手を出してこないか、サルビアが確認をとる。


「そうだよ。その説明もするつもり。そして君はあくまで僕の家族になるんだから。危害を加える訳ないよ」


「君”は”?凛には手を出すって事?」


サルビアが凛を庇う様に前に出る。


「サルビア。俺はお前を守る為に呼ばれたんだぞ。多分、大丈夫だ」


凛がサルビアの肩に手を置く。


「凛くんの言う通り。サルビアは僕の妻。凛くんはサルビアの用心棒として呼んだんだから、傷つける様な事なんてしないよ」


「その話本当よね?もし、凛さんに何かしたらただじゃ置かないから」


「おー。僕の妻は逞しくてかっこいいなあ」


「ふざけないで!てか、まだ妻じゃないから!」


「そうだね。これから妻になってくれるんだもんね?」


魔王が首を傾げる。


「……とりあえず、さっさと説明して貰うぞ」


凛は苛立ちながら、サルビアの手を取り扉まで行く。


「凛さん……」


「サルビア。不安で怖いなら大丈夫って自分に言い聞かせろ。そうしたら不思議と何とかなる。それに、俺がついているから何があっても大丈夫だ」


「うん……。凛さんがいてくれて良かった」


「ちょっと!これから僕の妻になる人を誘惑しないでよ!」


魔王が凛の手を取り払う。


「そんなんじゃない。サルビアは俺の妹みたいなもんなんだよ」


「君、妹いるじゃないか」


「……何で知ってる?凛に何かしたんじゃないだろうな?」


凛が腰からナイフを取り出し、魔王に向ける。


「違うよ〜。楽屋で一度だけ会っているじゃないか。サルビアが逃げ出した時、一緒に巻き込んで連れて行った女性だろ?その時ミリオさんから聞いたんだよ。最初に見た時に思ったけど、君たち見た目はあまり似てないよね」


ミリオというのは、サルビアの父親の名前だ。


「……二卵性だからな」


凛がナイフを仕舞う。


「ふーん」


魔王はあまり興味が無さそうだ。


「じゃ、行こうか」


魔王に付いて2人は大きな扉を通る。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


中に入ると、広い部屋があった。

真ん中に大きな丸いテーブルと、椅子が置いてある。

奥の壁には更に大きなモニターが取り付けられている。


「どうぞ」


魔王が椅子を引いて待つ。


「……どうも」


サルビアは仕方なしに席に座る。

凛もサルビアに近い席に腰を下ろす。


「さて。じゃあ、まず僕の自己紹介から始めようか」


魔王はモニターの前に立ち、リモコンを操作する。

パッとついた画面に映像が流れ始める。


「これが僕。先代魔王と人間の間に産まれた可愛い普通の男の子」


可愛らしいそれは、5歳くらいの子どもだった。

何故か足や顔が傷だらけの少年は、無表情でそこに立っている。


「ただし、他の子どもと違う所がふたつ。母親が僕を産んですぐに亡くなった事。そして、父親が”魔王”という事実。そんな僕に追い打ちをかけるように始まったのが、同年代の子たちからの虐めだった」


「そんな……」


サルビアはショックを受ける。


「仕方ないさ。魔王が身近にいるなんて、普通なら怖いはずなんだよ。そして、その恐れは子どもだけじゃなく大人にまで広がっていき、次第に「あの子には近づいちゃダメ」なんて言われるようになって虐められる事すらなくなってしまった」


映像が変わり、少年が1人で絵を描いている姿が映る。


「そして、暫くして父がある事を始める」


「私、ここ知ってる……」


映された場所は、サルビアが一度訪れた事のある街だった。ただ、サルビアの知っている街とは雰囲気がかなり違っていた。

静かに波打つ綺麗な海に、活気あふれる住人たち。

ペンタと出会ったあの街だった。


「47年前の話だ。知っている奴も多いだろう。僕の父が水魔法使いを消し、荒廃させた街だ」


「俺も知ってる。大体の奴が授業で学んでいるはずだ。確か、今もその影響は残っていて貧しい生活が続いているって。簡単に街を出る事も許されず、外に出られたとしても、自分の生まれ育った街の名を口にするだけで虐められる事もあるとか……。サルビア、行った事あるのか?」


凛がサルビアに質問をする。


「スタジオに連れて行かれる前に逃げ込んでいた街よ。結局、捕まっちゃったけどね」


(まさか、ペンタのいたあの街がそこまで酷かったなんて……。あの子、大丈夫かな)


魔王の行いをペンタから聞いてはいたけれど、街の外にまで影響があるなんて思いもしなかったサルビアはあの約束を思い出し不安が募る。


     ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


「やった!じゃあ、7年後待ってるからね?」


「うん、絶対行くから」


     ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


(手紙を受け取ったらきっと諦めて返ってくれてるはずよね……)


今のサルビアには、ペンタの無事を祈る事しかできなかった。


「ん?でも47年前って……。お前は何歳なんだ?」


「お前って……。まあいいけど。年齢は秘密〜。でも、君たちの親と近いくらいかな?」


「え、私両親と同い年の人と結婚するの?」


「ははっ。安心してよ。そのうち君の両親の年齢すら超えると思うから。てか、今時年齢なんて気にしちゃダメだよ〜」


(超えるって、勝手に私の両親を殺さないでよ……)


「それより、貴方のお父様がした事全部魔王の仕業って事になっているけど、それは良いの?」


あくまで人間側では魔王が1人だけという事になっている。その1人が全ての原因だと恨んでいる人も少なくはない。

ペンタの父親がそうだった様に。


「良いんだよ。同じ様なもんだし、僕も命令されて実際に人を殺した事だってある……」


人を殺した。

それを聞いてサルビアはペンタの両親の話を思い出す。


「貴方、後悔とか反省はしていないの?」


怒りで少しサルビアの声が低くなる。


「……責任は取るつもりだよ。でも、それは今じゃない」


「つまり、お前は命令されたから仕方なく人々を襲っていたっていうのか?」


凛の問いに魔王は頷く。


「だからって許されようなんて思っていない。あの人を止められない僕も悪いんだから」


(この人、そんなに悪い人じゃないのね……)


人を殺めているとはいえ、魔王自身も先代魔王の支配という恐怖に抗えなかったのだ。

責めようにも、怒ろうにも、サルビアの気持ちは冷めてしまった。


「んで、責任を取るのは今じゃないってどういう意味だ?」


凛が聞く。

すると他に誰もいないのに、周りを気にしながら魔王が口を開く。


「でも、このままじゃダメな事は分かっている。そこで、今回の婚約が関係しているんだ」


「「え?」」




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