10 大掃除
黒く禍々しい屋敷を前に、Kクラス一行は立っていた。
「ここがK専用の寮だ」
「K専用?この少人数で全て使って良いのですか?」
ベクターが聞く。
「そうだ。ただし、ここでは寮長が俺になる。ここで俺を呼ぶ時は寮長と呼べ」
「先生と一緒に生活するんですか?」
「寮長だペンタ。なんだ?不満でもあるのか?」
「不満というか、お互い生活しにくくないですか?」
「いや意外と便利だぞ。授業で分からなかった事もいつでも聞けるし、朝は俺が直々に起こしてやれるから寝坊の心配もない」
ナナシが不敵な笑みをする。
「それはまた恐ろしい……」
「寮長!ここでは1人ひと部屋使ってもよろしいのでしょうか!」
「ああ、そうだ。まあ案内するから来い」
ナナシが古びた扉に手をかける。
ギギギという音とともに扉が開かれる。
「ごほごほっ!!!!」
リンリンが咳き込む。
「リンリン大丈夫?ここ、ホコリすごいね」
ペンタがリンリンの背中をさする。
「今まで誰も使ってないからなあ」
ナナシがボソリと呟く。
「「「……………はい?」」」
リンリン以外の3人の声が被る。
「誰も使ってないってどういう事ですか。過去にKだった先輩たちは何処で生活を?」
ベクターが尋ねる。
「去年まではJ〜Kは同じ寮に住んでいたんだよ。だが、去年の1年が色々とやらかして寮が燃えちまってな。それでどうせ建て直すなら、全クラス別々にしましょうってなったんだ。ただ、その問題を起こしたやつらがKだったから、反省としてうちだけこんなボロ屋敷を渡されたって訳」
「先輩たちは一体何をしていたんですか……。しかも当の本人たちは2年に上がってここ使わなかったんですよね。僕たち完全に巻き込まれですね」
「さあな。盛んな学年だったからな。バーベキューでもして火事になったか、単純に火魔法で遊んでいたか」
(凄い人たちだな……)
「でもその方達のおかげでこうして専用の寮を用意して頂けたんですよね!!感謝です!」
「どれだけプラス思考なの……。どう見てもボロボロで汚れまくってるじゃん」
「そう。この寮は汚れすぎている。よって、これから大掃除を開始する!」
「え、嫌ですよ」
「僕汚れアレルギーなのでパスで」
「僕は掃除好きだぞ!任せたまえ!」
「……」
「ベクターは嘘つくな。あとパスとかない。リンリンは出て行こうとするな。カールは偉いな。んでペンタ、これは強制だ。言っただろ?寮の案内をするって。掃除をする事で寮が綺麗になり、ついでに寮の事もよく知る事ができる。一石二鳥だ」
「先生そういうやり方ばっか!」
「寮長だペンタ。よし、じゃあまずはこの広間からやるか」
そう言って掃除用具を出してくる。
「見ての通り、入ってすぐの広間だ。この屋敷は広いから1箇所に時間をかけてはいられない。昼食までにあと1時間。腹も減ったからここはさっさと終わらせるぞ」
「また無茶を」
ナナシが渡して来た雑巾を手に取るペンタ。
「魔法は使っても?」
ベクターが聞く。
「ああ。良いけどお前らの中に掃除に役立つような魔法使いいないだろ?」
それを聞きベクターがカールを見る。
「カール。水魔法でどうにかできないですか?」
「それは難しい!僕はそこまで魔力がある訳でもないし、地元では水魔法使いの底辺と言われていたくらいだからな!」
「そんな堂々と言う事ではないでしょう……」
「楽はできないみたいだね」
「そういう事だ。さっさと終わらせてしまうぞ!」
「はーい」
「仕方ないですね」
「頑張るぞ!」
「……」
━━━━━━━━20分後。
「……よし、何とか綺麗になったな!」
「腕と腰が痛い……」
「お年寄りみたいですよペンタ」
「……」
広間の掃除が終わり、ペンタたちは疲れて床に座り込んでいた。
「お前ら良くやった。次は食堂だ」
「えー!少しくらい休ませて下さいよ〜」
「あのなあ。今日入学したてでお前らは忙しいんだ。今日の残りのスケジュールを教えてやる」
そう言って紙を出し書き出していく。
「良いか?今が11時25分。12時になると昼食の時間だ。そして、13時からは2年への挨拶。その後15時には教室の準備。まだ教科書とか生徒手帳を貰っていないだろ?その時に渡される事になっている。そして、17時には寮に帰って来て晩御飯だ。そして最後に風呂に入って就寝」
「寮長!就寝が早くないですか?」
カールが質問をする。
「もちろん、あくまでスケジュールだ。風呂だけ入ったら後は自由にしてくれて構わない」
「でも僕とペンタは風呂掃除って訳ですね」
「そうだ。ぜひ舐めまわせるくらい綺麗にしてくれ」
「今から憂鬱だ……」
「大丈夫ですよ、ペンタ。僕が2人分頑張るので、ペンタはゆるゆると床磨きでもしていてくれれば良いのです」
「ベクター私に甘すぎない?」
「……人として気に入っちゃっただけです」
「さあ!さっさと終わらせるぞー!」
ナナシに食堂までの行き方を聞きながら、4人は廊下を磨きつつ進んでいく。
「ここが食堂だ」
「つ、疲れた……」
「流石にこたえますね」
「僕はまだいけるぞ!」
「……」
食堂についた時には4人ともへとへとになっていた。
「お前ら!気合いを振り絞れ!今回綺麗にしておけば、これから楽しい寮生活が待っているからな」
「「「はーーーい……」」」
「食堂は基本誰が使ってくれても構わない。各々自由にしてくれ」
「寮長。僕たちのご飯は誰が作ってくれるのでしょうか?」
ベクターが質問をする。
「お、良い質問だ。答えは俺だ」
「え?先生料理できるんですか?」
「あのなあペンタ……。まあいい。料理は俺の得意分野だ。味の保証は確実だから、安心して毎日楽しみにしているといい」
「僕たちより忙しい寮長はいつ料理をするのでしょうか!」
「さっきも言ったように、晩御飯は17時。あとの時間も大体は決まっている。それまでに作るくらいの余裕はあるよ」
「なるほど!さすが寮長です!」
「さっ、掃除するぞ〜」
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「よし、じゃあ次は各自部屋を案内する」
「お風呂が先じゃなくて良いのですか?」
「風呂はお前ら2人の仕事だ。もう時間もないから、夕方帰って俺が晩御飯の準備をしている間に終わらせろ」
「分かりました」
「え、今日2回もお風呂掃除するの……?」
ナナシは廊下を進み、階段を指差す。
きしむ階段を上がり、一行は2階へ向かう。
「ここに並ぶ部屋がお前らの自室になる」
真っ直ぐの廊下の壁に古い4つの扉がある。
「先生の部屋はどこに?」
「なんだペンタ。意外と寂しがりやだな。近くにいて欲しいのか?」
「そんなんじゃありません!」
「冗談だよ。俺は1階の広間にひと部屋あるからな。そこにいるよ」
(あ、そういえば掃除している時に扉がひとつあったな……)
「ま、そういう訳だ。自分の部屋は自由に改造やら模様替えやらしてくれて構わない。だが、今が11時50分だ。10分で終わらせて食堂まで戻ってこい。すぐに昼食にする。あ、手はしっかり洗えよ〜。じゃあ俺は昼食の準備をする。何かあれば声をかけてくれ」
ナナシはじゃ、と言って階段を降りていった。
「……どの部屋にする?」
初めての生徒だけの空間にペンタがまず口を開く。
「そうですね。でもどれも同じ様な扉なので中に差はないと思います。どこでも同じでしょう」
「僕は最後で良いぞ!」
「えっと、じゃあリンリンから決めて?どこが良い?」
リンリンは頷いた後、右手にある1番手前の扉の前に立つ。
「それだね?じゃあ、次はベクター選んで」
「ではここで」
ベクターはリンリンの前、左手の1番手前を選ぶ。
「なら私はここ」
ベクターの隣、左手の奥の扉を選ぶ。
「僕はここだな!」
カールはリンリンの隣、ペンタの前の扉に立つ。
「では、それぞれ掃除が終わったら食堂で集合という事で」
「解散だね!」
4人は頷いて扉の中に入る。




