11 バタバタ
時刻は12時50分。
ペンタたちKクラスはナナシと共に、2年生の教室へ向かっていた。
「まさか先生が本当に料理上手だったなんて……」
「そんな事より、部屋の掃除全然終わりませんでしたよ……」
「なんだ2人してブツブツと。もう着くぞ」
「この階段久しぶりに見た気がする……」
気づくと、目の前で階段が沢山動いていた。
どうやら、入り口は色んな場所にあるようだ。
「ここは一歩踏み外すと遠くへ飛ばされる。気をつけろ」
ベクターが下を覗き込む。
「遠くって例えばどこです?」
「それは俺も知らない。上からそう聞いているだけだ」
「そうですか……」
「良いか?俺たちがこれから向かうのは2年のKクラスだ。まずは8って書いてある扉を探せ」
「!」
突然、リンリンが奥を指差す。
その先を見ると、8と書かれた扉を見つけた。
「リンリン凄い!」
「すぐ見つけられて良かった。ここは目的地を見つけるのに時間を取られるからな」
「何故このような作りになっているのです?」
「これも上の趣味だよ」
「全く迷惑ですね!」
ナナシは全体を見回す。
「んじゃ、あの階段を使うか」
右奥の方からゆっくりと近づいてくる階段があった。
「でも先生。階段がここまで近づいてきたとしても、結構距離がありますよ?」
(最初に来た時はルージーのお陰で何とかなったからなあ……)
「簡単な事だ。魔法を使えば良いんだよ」
「魔法って言っても……」
「と、言う訳で俺は先に行って待っている。時間までに来いよ」
そう言うとナナシは自分の胸をグサリと刺す。
「先生!?」
「は!?」
「先生!!!ナナシ先生!!」
「!?!?」
パタリと倒れたきり反応がない。
「……あれ。僕たち何でこんな所で立っているんだ?」
「確か2年生に会いに来たはず!!」
「それであの階段までどうやって行こうか話していたんだっけ?」
「……」
階段が近づいてくる。
「とにかく、あれに乗りましょう!」
「乗るってどうやって?」
「この中で使えそうな魔法はなかった様に思うが!」
「……」
リンリンがベクターの袖を引く。
「ん?どうしました?」
「……」
リンリンが右からくる階段とは別の、真上から下がってくる階段を指差す。
「あれに飛び乗りますか……」
「しかし、下がるスピードがなかなか早い様に思う!タイミングを失敗すれば落ちてどこかへ飛ばされるぞ!」
その時、階段が4人の鼻先まできてしまった。
「でも行くしかないでしょ!せーの!」
そう言ってペンタが1番に飛び降りた。
「くそっ!」
「南無三!」
「……!」
3人もペンタを追う様に飛び降りる。
しかし、階段は思っていたより早いスピードで4人との距離を突き放していく。
「これ無理な感じ〜!!!?」
ペンタが叫ぶ。
その時、階段が急な方向転換をしてしまう。
もちろん、下は真っ暗。
「嘘でしょーー!!!」
「急に動くなー!!」
「これはもうあれだな!飛ばされるな!」
「……!!!」
4人はパニックに陥った。
通り過ぎる階段に手を伸ばしたりしてみるが、誰も掴めないまま落ちていく。
すると、突然下から突風が吹いた。
ブワッ!!!
「へ!?」
突風は4人を軽々と持ち上げ、天井の近くまで飛ばしてしまった。
「遠くってそういう意味!?」
「いや、でも助かりましたよ!このままあの教室へ入りましょう!」
「だいぶ無理があるな!」
「……」
「リンリンが気を失っているみたいだぞ!」
カールが手を伸ばしリンリンを片手で担ぐ。
落下中の4人から見て、真下に8の教室はあった。
「あそこ!このまま入りましょう!」
「どうやって!?」
「階段が周りにいくつかあるでしょう!あれにぶつかりながら落ちて速度を落としましょう!」
「怪我は避けられないな!」
3人は自由に動き回る階段に身体をぶつけながら落下していく。
ベクターは誰よりも先にぶつかり、体を張りながら2人の道をつくる。
ペンタはそんなベクターの後を、痛みに耐えながら追いかける。
カールはリンリンを庇いながら落ちていく。
「痛い!痛い!!」
「そこの階段!いてえっ!あ、あれに勢いよくぶつかれば、教室に入れます!」
「扉がっ!開くといいな!」
3人は体の向きを無理やり変え、最後の階段に肩をぶつける。
そのままの勢いで、目の前にある扉に飛び込む。
ガチャッ
「おーい、まだ来ないのかって……おいおいおい!!」
その時、ちょうどナナシが扉を開けた。
ドンっ!バタバタバタバタ!!
「いって〜!」
「い、痛い……辛い……」
「……リンリンはどうやら無事だな!」
「お前ら……何やってんだ……」
「ナナシ先生!?大丈夫ですか!?」
1番近くにいた眼鏡の男がナナシに声をかける。
「いや、本当に、こいつら初日から問題だらけだな……。おい、お前らも立て!2年が見てるぞ!」
ナナシが3人を退けて立ち上がる。
「立てないです……。てか先生、生きていたんですね……」
「だいぶ無理かも……」
「僕も動けないな。先生、リンリンだけ見てやって下さい」
気絶したリンリンはともかく、3人はボロボロになり身体中の痛みで動けなくなっていた。
「私、ガマエル先生を呼んできます!」
突然飛び込んできたペンタたちを唖然として見ていた2年生の中から、1人の女が3人を横目に、教室を出ていく。
「ガマエルさんって……先生だったの……?」
「ペンタ。そんな事はどうでも良い。後で3人にはきっちり説明してもらうからな」
「はい……」
「これでも頑張ったんですけどね……。うっ、吐きそう……」
「スクオーラは厳しいな……!」
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「全く。どうすれば身体中こんなアザだらけになるんだ?ベクターは骨折までしていたぞ」
ガマエルが3人の回復を終える。
「治ったが、あまり無茶をするなよ?」
「はい……ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「凄いな!もう痛みが無くなったぞ!ありがとう、先生!」
「……」
「前回出番が無かったんだ。あの時の分、仕事したと思っておくよ。しかしこのクラスにはこれから、こき使われる未来が見えたぞ。では、ワタシは授業中だったので戻るからな」
「ああ。急にすまなかったな」
ガマエルが手を振りながら教室を出て行く。
「……で?回復中に話は一通り聞いたが、何で誰も魔法を使わなかった?」
「誰も使える魔法を持っていなかったからです……」
ベクターが答える。
「ああ、そうか。俺の説明が悪かったな。すまん。あそこでは何でも良いから魔法を使えば、階段が目の前まで迎えに来てくれるんだよ」
「はい!?」
「なんですかそれ、聞いてないです」
「説明不足過ぎるな!」
「……」
「そうか。朝はお前ら新入生の為に、学長が階段を止めていてくれてたんだっけな」
(え?でも私とルージーの時は……)
「4人ともすまなかった。次からは1人ずつ簡単に魔法を出すだけで階段に乗れるからな」
「……分かりました」
「次からはそうしますね」
「あの痛みは無駄だったのか!」
「……」
「ナナシ先生。そろそろ……」
先ほどの眼鏡の男性が声をかける。
「ああ。すまない。4人とも、2年生に挨拶だ。1人ずつ自己紹介をしていけ」
4人はナナシに誘導されるまま、黒板の前に並ぶ。
「じゃあ、奥のベクターから順に」
ベクターはぺこりと一礼する。
「初めまして、バタバタとお騒がせして申し訳ありませんでした。1年Kクラスとしてこれからお世話になります。ベクターです。何かとご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」
「真面目そうだな」
「Kクラスっぽくないよね」
「えー、なんか可愛い〜」
「眼鏡が似合ってますね」
2年生それぞれが好きなことを言いながら、パチパチと拍手が送られる。
「初めまして、カールです!好きな食べ物はシチューです!よろしくお願いします!」
「名前と好きな食べ物しか言わなかったぞ」
「さっきの子とは真逆で暑苦しそうだね」
「結構筋肉ある〜かっこいい!」
「ちょっと、サナ。はしたないですよ」
「……」
「あー、この子については魔法が関係していて、話すことはできない。俺から説明させて貰う。リンリンだ」
「今度は名前しか分からなかったぞ」
「今年のKクラスは変わった子ばかりだね」
「私たちも1年の時は先輩たちにそう言われてたよ〜?」
「懐かしいですね」
「えっと……。ペンタです。好きなアイドルはサルビアです。よろしくお願いします」
「おいおい。サルビアって確か歌姫の?」
「この間引退したんじゃなかったっけ?」
「男の子じゃないから興味ない〜」
「私もサルビアの歌、好きでしたよ」
(好き勝手に言ってくれるな……。それより、サルビアは引退した事になってるんだ。凛さんから聞いてなかったな。次からは名前を出さないようにしよう……)
「あー、静かにー。今自己紹介を終えたこの4人が、今年の1年Kクラスだ。俺からもよろしく頼んだ」
自己紹介が終わると、ずっと拍手をしていた眼鏡の男が4人の前に立つ。
「僕はイフだ。2年Kクラスの担任をしている。何か困った事があればいつでも頼ってくれ。このクラスの連中もきっと助けてくれるさ」
「おう!任せろ!」
「お返しはいらないからね〜」
「男の子の頼みなら聞く〜」
「できる範囲でなら……」
「じゃあ、お前らも自己紹介をしていこう」
イフに言われ、背の高い男が1人立つ。
「俺はギースだ。火魔法を使う。そして仲間が好きだ。お前ら1年もこれからはその仲間のうちに入る。いつでも助けてやるからな」
(少しカールと似てるかも……?)
「火魔法って事は寮を燃やした張本人ですかね」
ベクターが小声で話しかけてくる。
「多分……?」
ペンタたちは小さく拍手を送る。
「僕はユーリンだ。土魔法使いだよ。って言ってもカッコいい事はできないけど。それでも守ってあげるから、声かけてね」
(チャラそう……)
「私はサナ。男の子が好き。毒魔法使い。以上」
(怖そうな人だなあ)
「私はモネ。花魔法を使うよ。これからよろしくね」
(この人は優しそう)
「お前ら相変わらずだな」
ナナシが2年生4人に向けて言う。
「先生また少し老けたよな?」
「ギーくん、それは言わないであげようよ」
「先生、髭剃ってっていつも言ってるじゃん〜」
「先生も相変わらず口が悪いですね」
「先生。スクオーラではやっぱり1クラス4人が基本なんですか?」
ペンタがナナシに聞く。
「別に決まってる訳ではないんだけどな。不思議と毎年その人数になるんだよ。Aは別としてだが」
「先生!今日はこの方たちに挨拶をしに来ただけでしょうか!」
カールが手を挙げて質問をする。
「いいや、もうひとつ目的がある。2年が1年にそれぞれ1人ずつ付いて、魔法の練習法を教えて貰う」
(ええ、あの人以外は嫌だな……)
「そういう事だから、1年Kクラス。うちの生徒をよろしく頼むよ」
そう言ってイフが頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「……」
「はい!よろしくお願いします!」
「はい、よろしく……?」
(こっちが頼む側じゃなくて?)
「ここで魔法使うのも狭いから、場所を移動しよう」
ナナシが扉を開ける。
「お前ら、もう飛び込んだりするなよ?」
ペンタたちを見て、にやけ面で言うナナシ。
「元はといえば貴方の説明不足のせいですよ。貴方自身の魔法のことも。それに、教室移動するなら最初からそこに集合で良かったではないですか」
「ベクターの言う通り」
「全くだ!」
「……!」
「それは悪かったって……」
ナナシに続いて一行は教室を移動する。




