14 家
ドサッ
「はーーー……」
(夜ご飯美味しかったなあ……)
ナナシの作った夜食を思い出すペンタ。
「でもお風呂掃除疲れた〜……」
ベッドに横になり、天井を見上げる。
(久しぶりに1人になった気がする……)
綺麗に片付けた部屋をぼーっと見渡す。
(今日は色んな事があったな。人にも沢山会ったし、それに私の星魔法についても新しい発見があった。このまま頑張って力を付けていこう。そして、少しでも早く強くなってサルビアを助けに行くんだ。サルビア、早く会いたいよ……)
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「ん……」
ペンタが目を覚ますと、外はすでに明るくなっていた。
「あれ……私あのまま寝ちゃってた?」
焦って時計を見る。
「まだ早朝じゃん。寝坊じゃなくて良かった……」
ベッドから体を起こすと、ペンタは昨日貰った制服に着替えて部屋を出る。
階段を降りて広間に着く。
「まだ誰も起きてないんだ」
誰も起きている気配がなく、外から鳥のさえずりだけが聞こえてくる。
「まだ時間あるし、少しだけ街を探索してみようかな」
凛に案内されたとはいえ、まだ行けていない場所は沢山あった。
「ベクターたちが私を探さないように、メモに残しておこう。『少しだけ街を散歩してきます。すぐ戻ります』っと」
紙を扉の壁に貼り付け、ペンタは屋敷を出る。
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「あ、あそこだ!凛さんに案内して貰ってる時、この坂から見えて気になってたんだよね」
急な坂から街を見下ろすと、1箇所だけ賑やかに人が集まっている場所があった。
「行ってみよう!」
ペンタはウエストバッグに仕舞っていた球体を取り出す。
それを足元へ投げると、箒が現れる。
箒にまたがり行き先を言う。
「人が集まっているあの場所へ!」
箒はぐわっと勢いよく浮いて、ペンタを目的の場所まで運ぶ。
「ありがとう」
お礼を言って箒を仕舞う。
「これお祭りってやつかな?」
そこには男女も年齢も関係なく、色んな人が腕を組みながら輪になり踊っていて、見た事のない楽器を扱って演奏している人もいる。それに合わせて子どもたちが歌っている。
「楽しそう……あ!屋台もある!」
そこを囲むようにいくつかの屋台があった。
よく見ると、食べ物屋が多い。
「でも私、お金持ってないや……」
凛にお小遣いを貰ってはいたが、使いすぎてしまうのが不安で、寮に置いてきてしまっていた。
「お嬢さん。何かお困りかな?」
声をかけられ振り返る。
「えっと……」
ボサボサの頭にボロボロの服。
背が高いから、より細い体が際立っている。
「ああ、すまない。突然声をかけられたら驚くに決まっているね。いや、君があまりに寂しそうな顔をしていたからね」
そう言って男はウインクをする。
「私、寂しそうな顔してましたか?」
「ああ。まるでおままごとに入れて貰えない少女のようだったよ」
「……私、こういう所初めてなんです。事情があって地元ではお祭りなんて無かったし、屋台も見た事ないし。憧れだったんです。でも、お金を置いてきてしまって買えないんです。取りに戻ってたら時間がないし……。まあ、いつでも来れるので、また次の機会に寄ります」
ペンタは笑って去ろうとする。
パンッ!!!
「!!!?」
男が突然手を叩いた。
「あれ?皆んなどうしちゃったの?」
祭りを楽しんでいた人々がピタリと止まって動かない。
「ほら。これで取りに行けるだろう?」
「もしかして……時間を……?」
男は笑顔のまま、さあ行った行ったと手で合図をする。
「え、えと、ありがとうございます!」
ペンタは急いで走った。
(時間を操る魔法なんて、聞いた事ない!あの人何者なの!?)
走っている途中に見る景色も人も、全部の時間が止まっていた。
寮に戻ると、広間にカールがいたが、やはり時間は止まっていた。
「お金お金……あった」
お金を手に取り、再びあの祭り場へ向かう。
「おかえりなさい〜」
男はペンタに手を振る。
「無事に取りに行けたかな?」
「はい……ありがとうございます」
「うん!」
男は満足気にもう一度手を叩く。
「わっ」
すると、また人々の時間が動き始めた。
「しっかり楽しむんだよ〜」
「え、ま、待って!」
男はペンタの声を聞く事なく、立ち去ってしまった。
「……名前だけでも聞いておけば良かった」
だが、ペンタの中であの男の存在が長く残ることはなかった。
「不思議な人だったな……いや、今はそんな事よりお祭りだあ!」
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ガチャッ
「あ、皆さん。ペンタが帰ってきましたよ〜……ってその重そうな袋は?」
ベクターの目に1番に溜まったのは、ペンタが大事そうに抱える大きな袋だった。
「へへ。ちょっと楽しみすぎちゃった」
「おお、戻ったか……ってその袋なんだ?」
ナナシも不思議そうに袋を見る。
ペンタは机の上に袋の中身を出す。
「お祭りがあってね。そこで少し買いすぎたの」
「買いすぎって……焼きそば12パックもありますが?」
「りんご飴なんか20個以上あるぞ」
「焼き鳥が数えきれないくらいあるぞ!」
「……!」
「はは……。他にお金を使う機会もないし、お祭りが楽しすぎてつい……」
(やっぱ使いすぎたあ……)
ペンタは焼きそばを1パック開ける。
「私1人じゃ食べきれないしさ、良かったら皆んなで食べよ?」
「良いんですか?」
「良く言ったペンタ。これとこれ昼食にしよう」
「俺はこれで!ありがとな!」
「……!」
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暖かい日差しに包まれる昼過ぎの授業中。
「〜て事で、魔王様には反抗してはいけないという世界の掟ができてしまった」
「スー……スー……」
「おい」
「スー……」
「ペンタ〜、起きろ」
「スー……」
「おい!」
バシッ!
「いったあ!?」
「お前なあ、朝早く起きすぎたんじゃないか?ちゃんと寝たか?」
「ん〜、寝過ぎくらいしっかり寝ましたよ」
ベクター達がペンタを見てクスクスと笑う。
「ったく、今のとこ理解したか?」
「えっと……」
「……もう一度説明してやるから、しっかり聞いていろよ」
ため息を吐いてペンタの教科書を開くナナシ。
「この世界には魔王様が存在する。その方を恐れ、敬う奴もいれば、その辺の雑草のように気にしない奴もいる。その魔王様がいつ、どの様に生まれたかペンタは知っているか?」
ペンタは首を横に振る。
(あいつの出生なんて、興味ないし……。てか、あいつを敬う人なんているの?)
「そもそも、おかしいと思わないか?魔王様という存在が1人しかいないなんて」
「え?どういう意味ですか?」
「実はな、はるか昔。この世界は魔界と繋がっていたんだ」
「魔界……?」
「ああ。今みたいに魔王様だけじゃない。小さい奴から大きい奴まで、色んな魔物がいた」
「ええ……。それは、恐ろしいですね」
「そう思うだろ?でもな、その頃の人間と魔物は仲が良く、共存していたんだ」
「ええ!?魔物と!?」
「想像つかないだろ?だが、確かに存在していた事が昔の資料に残っている」
ナナシが教科書の一部分を指でトントンと指す。
「え、これが魔物?」
そこに載っている魔物は、人間にくっつき懐いている様子で、愛らしい見た目をしていた。
「そうだ。こいつらは魔界とこの世界を行き来して暮らしていた。しかし、ある日を境に魔界は魔物諸共消滅した」
「消滅?」
「魔王様が現れたんだよ。魔界の王ルシファーと、初めの頃は呼ばれていた」
「ルシファー……。なんでそいつが現れて魔界や魔物が消滅しちゃうんですか?」
(ルシファーが、あいつの名前……)
「そいつって。お前中々度胸あるな。その時ルシファーは、魔界を追放されてこの世界に降りてきた」
「追放?一体何をしたんですか?」
「さあな。そこまで詳しい情報は何処にもない。ただ、世界に降りてきたルシファーはそれは物凄く荒れていて、全てを憎んでいたそうだ。その時に大暴れしたせいで、魔物達が怯えて魔界へ戻った。しかし、その時戻らず残った魔物もいた。同時に、ルシファーが黒い光を放った。すると、魔物も魔界も全て消えてしまっていたという。そして現在、ルシファーと呼ばれた魔王様はそれからずっとこの世界にひとりでいるんだ」
「なるほど……。つまり、ルシファーが全て悪いって事ですね?」
「それは違うな!この話を聞く限り、魔王様にも全てを消してしまいたくなるほどの何かがあったという事になる!その事情を知らない俺たちに魔王様を恨む事はできないだろう!」
カールが言う。
「でも、だからといって現在の人々を傷つけるのは間違っていますよね」
ベクターが口を挟む。
「そうだな。だが反抗せずにいるのが、この平和を守るのには1番楽なんだ。だから誰も魔王様に歯向かわない。まあ、ごく稀にいるらしいがな」
「え?そうなんですか?」
「ああ。元々は魔王様の手下達なんだが、すぐ返り討ちにされるらしい」
「返り討ちというか、殺されるんじゃないですか?」
ベクターが聞く。
「いや、それが意外と戻ってくる奴もいるらしいんだよ」
「本当ですか!?」
ペンタが立ち上がる。
「うわ!?どうしたペンタ、落ち着け」
「あ、すみません……」
ナナシに言われ、席に座る。
「戻ってきた人がいるって事は、ルシファーの居場所も分かるって事ですか?」
「ペンタ、それ以上はダメだぞ。厳重に守られている秘密だ」
ナナシが真面目な顔をする。
「ダメって……。何でそこまでして世界はルシファーを守るんですか?」
「違う。魔王様を守っているんじゃない。この世界の人々を守る為のルールだ。もちろん、ペンタもその中に入っているぞ」
「そんな……」
「お、もう時間だな。お前ら、今日の晩飯何が良いか考えとけ」
チャイムが鳴り、ナナシが教室から出て行く。
「ペンタは魔王様に会いたい理由でもあるんですか?」
ベクターがペンタに話しかける。
「会いたいっていうか……気になるというか……」
「……僕はペンタが大切ですよ」
「へ!?何急に!?」
ガタガタガタッ!!!!
隣で聞いていたカールが机と一緒に倒れた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫だ……」
「ペンタ、聞いていますか?あまり危険な事はしないで下さいね?」
ベクターが真剣な表情でペンタを見つめる。
「わ、分かってるよ」
ペンタは思わず目を背ける。
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放課後。
ペンタは寮に戻る前に、他のクラスに寄っていた。
「あ!ルージー!」
教室を覗くと、ルージーが机で本を読んでいた。
「おお、ペンタ。元気そうで何より」
ペンタはルージーの前に立つ。
「あのね、今朝お祭りに行って来たの。そこで少し買いすぎちゃったから、良かったら食べて?」
ペンタは後ろに持っていた袋をルージーへ渡す。
「なるほど、ありがとう。祭りか、楽しそうだなあ。ワシも暫く行っていないよ」
「あ、そうだよね。ルージーも私と同じ街出身だもんね」
「ふふ。ペンタは知らないだろうが、実は昔はそれは大きな祭りをしていたんだよ」
「え?あの街で?」
「想像つかないだろう?」
ルージーがウインクをする。
「うん。そんな賑やかな街だったのに……やっぱり、ルシファーのせい?」
「ルシファー?ああ、魔王様の事かい。そうだよ。あれだけの騒ぎがあって、祭りを再開しようなんて人間は1人しかいなかった」
「1人はいたんだ?その人、相当お祭りが好きだったんだね。どんな人だったの?」
「屈強な男でな。確か妻と、子どもが1人いたと聞いた事がある。優しく勇敢で、あの魔王様にすら恐れを持たない。残念な事に、祭りを再開する事もそやつが長生きする事も叶わなかったらしいがな」
「……その人って」
「子ども1人だけ残し、魔王様にやられたと噂で聞いたがな。事実は知らん」
(パパだ……)
「ペンタの知っているやつか?」
「ん、実はね……」
…………………………………………………
「なるほど。まさかペンタがその男の子どもだったとは。たった1人で苦労してきたの……」
ルージーが立ち上がりペンタの頭を撫でる。
「……ううん、大丈夫だったよ」
「あ、そういえばルージーに聞きたい事があるの」
ペンタは溢れ出しそうな涙を拭い、ルージーに尋ねる。
「時間を止める魔法ってある?」
「時間を?」
ペンタは今朝あった事を話す。
「んー、初めて聞くのお。そんな魔法使いがいれば、噂になっていてもおかしくないが……」
「だよね」
「だが、何故ワシに聞いたんだい?担任やクラスの人には聞かなかったのかい?」
「まだ他の人に相談とかできなくて……」
「ほお?クラスに馴染めていないのか?」
「ううん。クラスの人たちも先生も、皆んな良い人で話しやすいんだけど、心配かけたくないし相談できなくて…」
(特にベクターには……)
「……ペンタ。君が思っているより人は頼って欲しい生き物なんだ。だから、ワシもそうだが、クラスを家だと思っていいんだよ」
「……うん」
「さあさ、そろそろ帰らないと寮長に叱られるんじゃないかい?またいつでもおいで。待っているから」
「ありがとう……」
ペンタはお礼を言い寮へ向かう。
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「ただいま〜」
「おう、おかえり」
寮に戻ると、ペンタ以外の4人はすでに広間で好きなように過ごしていた。
「何してるの?」
カールとベクターが何やら紙に書いていた。
「陣地取りです」
「陣地取り?」
「点と点を結んで、三角形の陣地を多く作った方の勝ちってゲームだ!」
「説明しながらしてみますね。見ていて下さい」
そう言うと、ベクターとカールが紙にそれぞれ適当に点を10個ほど描き始めた。
「では、始めますね。まず基本はジャンケンをしますが、僕は先ほどカールに負けているので、カールが先行にしましょう」
「よし、俺が最初だな!」
カールが2つの点の間に線を引く。
「では、次は僕が同じ様に好きな点と点を結びます」
その後も、交代しながら線を引いていく。
すると、三角形が1つできた。
「僕が最初に作れましたね。ここで、誰の作った陣地か分かる様に三角形の中にマークを書いておきます」
ベクターが三角形の中に『ベ』と書く。
「ちなみに、一度陣地にした三角形の中にはもう線は引けません。こんな風に続けていって、最終的に三角形が作れなくなった時、1番多くの陣地を作れていた人が勝ちです」
「なるほどね!でも少し難しそうかも……」
「慣れれば楽しいぞ!」
「……おや、今回も僕の負けですか。カール、意外とこういうの強いですね?」
「意外とはなんだ!」
「私もしても良いかな?」
「もちろん。では、僕が相手になりましょう」
「よ、よろしくお願いします!」
…………………………………………………
「うー、勝てない……!!」
ペンタはベクターに4敗していた。
「俺ともやるか?」
「僕に勝てないんですから、貴方になんて勝てるはずがないでしょう」
「地味に酷くない!?……」
「どうしました?」
ペンタは三角形の中に書かれているマークを見る。
「ねえ、私思ったんだけどさ、リンリン喋れないなら紙に書けば良いんじゃ……?」
「……」
「……」
「「確かに!!」」
3人は、本を読んでいたナナシと折り紙をしていたリンリンにペンタが思いついた事を話してみた。
「あー、それはもう試そうとしたんだが、リンリン字が書けないみたいなんだよ」
「そうだったんですね……」
ペンタは残念な気持ちになる。
「読む事はできるみたいなんだが、書こうとすると頭の中が真っ白になるみたいでな。嫌がるんだよ。な、リンリン」
「……」
申し訳なさそうにリンリンが頷く。
「あ、いや!ごめんね。私、何も知らなかった。これからもっとリンリンの事知っていくね」
「……」
リンリンは照れた様に頷く。
「ん?でも字が読めないのならどうやって授業のノートをとっているんですか?」
「リンリンは字じゃなくて、絵でメモをしている」
「なるほど……絵なら描けるんですね」
「それでも、分からなかったところは後で俺に聞きに来たりしているぞ。お前らもリンリンを見習え〜」
「リンリン、偉いね!」
ペンタはリンリンの頭を撫でる。
「……!」
(私ももっと頑張らないと……)
パタッ
ナナシが読んでいた本を閉じる。
「さ、そろそろ晩飯にするぞ」




