チーズ転がしまつり ~転がる愛と、叫ぶ名誉と、追いかける猫!?~
村の春は、風が柔らかく、笑い声がよく転がる。
――そして今年は、文字通り「転がる」のである。
「はいっ! 本日の目玉競技! “チーズ転がしまつり”だぁぁ!!」
村長の声が丘の上でこだました。
その麓にはゴールの旗。丘の中腹に観客席。
そして、丘のてっぺんには――丸くて大きなチーズがずらり。
「うわぁぁ……おいしそう……」
ミーナの目が、完全に“獲物を見る猫”の輝きになっている。
「ミーナ……食べる前に走るんだ」
ルークは苦笑しつつも、妹の肩をやさしくポン。
「ルーク、今年は参加するのね?」
やってきたレイナは楽しそうに笑い、そして――
「ふむ、父として名誉にかけて――息子より速くゴールを目指すかな」
アベル、やる気満々である。
「勝負ではないのよ、あなた」
レイナが笑うが、アベルは胸を張る。
その横で、村の子供たちは大盛り上がり。
そして少し離れた場所では――
しろを筆頭に、猫軍団が整列していた。
「にゃ!!(あれは絶対追いかけるやつだ!!)」
「にゃにゃ!!(転がる物は止めないといけない気がする!)」
「みゃー!!(楽しそうだから走ろう!!)」
完全に競技理解ゼロである。
「おおっと!? ここで飛び入り参加!!」
そう、村長が叫ぶ先には――
ひらりと長いスカートを揺らして現れる少女。
「ふふっ、面白そうじゃない。
村のお祭り、楽しませてもらうわ」
イザベル嬢、優雅に参戦!!
さらに――
「イザベル様が参加されるなら……お守りせねば……!」
ギャリソンも参戦ッ!!
村中が拍手。
村のお姉さま方の声援が飛ぶ。
「ギャリソンさーん!! がんばってぇ!!」
「転んだら抱きついて助けてあげるわああ!!」
ギャリソンの顔が引きつる。
だが――猫たちの視線は一点。
「……(あいつ走る……走る男だ……ついていく…)」
完全に“走るターゲット認識”されていた。
そして――スタート!!
村長が手を振り下ろす!!
ゴロゴロゴロゴロゴロ――――!!
チーズが転がる!!
それを追って選手たちも駆け下りる!!
「よしっ、いくぞミーナ!!」
「は、はいっ! ミーナ、がんばる!!」
ルークとミーナが走る!!
アベルとレイナも走る!!
イザベル嬢は優雅に(でも全力で)走る!!
ギャリソンは――
転がるチーズよりも、迫りくる猫の群れから逃げるために走っている!!
「にゃーーー!!!」
「にゃにゃにゃーーーー!!!」
丘が猫に飲まれた。
「ギャリソン!! 走りながら紳士的に振る舞ってる場合じゃないぞ!!」
アベルの声。
「そんなこと言われなくても走っておりますッ!!」
ギャリソン、全力疾走!!
しかしその腰に――いつのまにか猫が二匹しがみついている。
「どこから乗った!?」
「にゃ(気づいたらいた)」
観客席は爆笑。
一方、ミーナは――
小さな足で必死に駆けている。
「はぁっ……はぁっ……!」
顔は真剣。けれど、楽しそう。
「ミーナ、無理するな。俺が横にいる」
ルークはスピードを合わせ、ミーナを風から守る。
「……うん! にぃ……にぃに、頼もしいね!」
その言葉に、ルークが少し赤くなる。
走りながら、嬉しそうだ。
そして――
最前線に踊り出たのは……イザベル嬢!!
スカートを押さえながらなお速い!!
「ふふっ! お茶会で磨いた脚力、侮らないでよね!」
あら、
「お茶会でしたら負けてませんよ。」レイナ『流石、元王女である』
その後ろで――
ギャリソン&猫の大暴走が、砂煙を上げて迫る。
「イザベル様ぁぁぁ!! 危険です、下がってくだ……っ!?」
気合でさらに加速するギャリソン!!
結果、イザベル嬢の背後に猫の壁が構築される。
完璧な護衛体制だが、完全に競技妨害である。
終盤――!!
チーズがゴール直前で跳ねた!!
「おっと――!?」
アベルが手を伸ばす!!
だが同じ瞬間――
ミーナが、目を輝かせて飛び出した!!
「えいっ!!」
チーズを軽く手でぽんっと押す。
その手は小さいけれど、やさしい。
チーズはふわりと転がり、ゴールの旗へ――!
ぽすん。
──ゴール!!
観客「おおおおおおおおおお!!!」
結果発表
優勝:チーズに最後の一押しをしたミーナ
審議の結果、
「かわいいので優勝」
という恐ろしい理由で決定した。
「え、いいの……?」
「ミーナが可愛いのが悪い」
村人満場一致である。
その後――
アベルは爽やかに笑う。
「……負けたな」
レイナも微笑む。
「でも、なんだか楽しかったわね」
イザベル嬢は息を整え、くすっと笑う。
「まあ……また参加してもいいわね」
ギャリソンは地面に倒れ――
猫たちに囲まれてモフの刑。
「……幸福ですが……動けません……」
しろやくろ達は胸を張る。
「にゃ!(守った)」
「にゃ!(いい仕事した)」
守る方向、完全にズレていたが。
そしてルークは――
ミーナの頭をやさしく撫でた。
「よく頑張ったな」
「えへへ……楽しかった!」
丘の風はあたたかく、笑いは遠くまで転がっていく。
――今年も、きっといい年になる。




