春の畑と、夏のにおい
丘の上にあるグランフィード家の畑は、まだ柔らかな春の空気に包まれていた。
冬を越えた土はふかふかで、陽の光を浴びながら、まるで「今年は何を育てる?」と問いかけてくるようだ。
ルークは腰に手を当て、畑をじーっと見つめていた。
「さて……今年はどうするか」
毎年恒例、**春から夏への“畑計画会議”**が静かに始まる。
◆ トマト確定の理由
まず最初に決まっているものがひとつ。
「トマトは確定だな」
――これはもう“家族会議”どころか“絶対条項”である。
――なぜなら。
「にぃにー!!」
ぱたぱたぱた、ぱたぱたぱた。
小さな足音と共に、満面の笑みのミーナ登場。
「トマトは育てるのです!?
育てるよね!? 育てるのです!!」
目がキラキラ。
すでにトマトを収穫する未来を見ている顔だ。
ルークは笑って頷いた。
「はいはい。
ミーナが全部食べてもいいくらい育てるから」
「えへへ、それは大事なのです!」
後ろでは猫たちがうろうろ。
トラ《トマトは丸くて転がる。良いおもちゃ……》
しろ《いや食べ物だろ》
(※去年、熟したトマトをボール扱いして大騒ぎになった前科あり)
◆ 父、現る
そこへ――影がひとつ。
「おや、相談会か?」
ひょこっと現れたのは父アベル。
腕を組み、息子の背後から畑を眺める。
「今年は楽しみだな。
ミーナのトマトは確定として……他はどうする?」
ルークは少しだけ真面目な顔に戻る。
「トマトの隣に、今年は――」
少し息を吸って、
「とうもろこし、どうかなって思ってる」
アベルの眉が少し上がった。
「お、いいじゃないか。
背も高くなるし、見てるだけでも夏って感じがするな」
ミーナの耳がぴょこん。
「とうもろこし……!
あまいのです? おいしいのです!?」
「めちゃくちゃ甘いぞ。
焼いても、茹でても、美味しい」
ミーナの目が再び星。
「それは育てるのです!!!」
――決定。
◆ 夏を想像して、少し未来を見る
ルークは畑に視線を戻す。
(夏の畑……)
緑が濃くなって
トマトが赤く実って
とうもろこしが風に揺れて
――そこに笑ってるミーナ。
――その隣で猫たちが走り回ってる。
――そして家族が並んで、それを見て笑ってる。
そんな景色が、
ふっと頭の中に浮かんだ。
「……いいな」
自然と笑顔になっていた。
◆ そして父は、やっぱり父
アベルは肩を軽く叩く。
「よし。
種の準備と畝の整備はお前に任せた」
ルーク:
「はい!」
アベルはにやり。
「もちろん、責任重大だぞ。
美味しく育たなかったら――」
ミーナがぐいっと前に出る。
「にぃには絶対おいしく作るのです!
ミーナ知ってるのです!
ルークはすごいのです!」
ルーク、少し照れる。
アベル:
「……まいったな。
そんな顔されたら、父さんも手伝うしかないじゃないか」
結局、
父も一緒に畑作りに参加決定。
◆ 春の空気の下で
その日、畑には笑い声が満ちていた。
ミーナは種袋を両手で大事そうに抱えて走り回り、
猫たちはひたすら邪魔をし、
アベルは時々ため息をつきつつも笑い、
ルークは――
ほんの少し未来を想像しながら、
静かに幸せを感じていた。
「よし。
今年もいい夏にしよう」
春風が優しく畑を撫でる。
新しい季節は、
もうすぐそこまで来ている。
――そしてグランフィード家の夏も、
きっと、騒がしくて、優しくて、幸せになる。
そんな予感がしてならなかった――。




