ミーナ、がんばる。 〜にぃにと、少し大人な一日〜
朝の陽射しがきらきらと村に降り注ぐ。
春の風がやわらかく髪を揺らし、猫たちがのび〜っと寝そべっている――そんな穏やかな朝。
しかし、その中心でひとりだけ燃えていた少女がいた。
ミーナだ。
「にぃに!!」
勢いよく両手を広げて走ってくるミーナ。
今日も天使のような笑顔だ。
「おはようございます! 今日ね、ミーナ、がんばる日なの!!」
ルークは、やれやれと言いながらも、目尻が思いっきり下がっている。
「おはよう、ミーナ。……がんばる日って、なんだ?」
ミーナは胸を張る。
「村のお手伝い、いっぱいするの! ミーナ、お役に立てる女の子になるの!」
――はい、出ました。
全力で“いい子宣言”。
ルークの心臓にダイレクトアタックである。
(あぁぁ……可愛い……尊い……妹天使……!)
しかし、兄というものは時に試練を与えなければならない。
溺愛しつつ、甘やかしすぎないように――と、理性がギリギリ抵抗する。
「……わかった。
でも無理はするな。
疲れたらすぐ言え。
転ぶな。
危ないものは触るな。
猫を抱えたまま走るな。
あと――」
「にぃに、注意が多い!!」
猫たちがくすくす笑うように鳴いた。
―――
■最初のお手伝い:洗濯物大作戦
村の広場で、おばさま方が洗濯物を干している。
ミーナは張り切って手伝いを始める。
「任せてください! ミーナ、慎重に、ていねいに、えいっ!」
ぱさっ!
布が綺麗に広がって――
風が――
ぶわぁぁぁぁ!!
洗濯物が空を舞う。
「み、ミーナぁぁ!?」
「洗濯物が春祭りみたいに飛んでいくー!」
「猫! 追うなぁぁ!!」
しろ、くろ、ぶち、三毛――
猫たちは楽しそうに布を追って大暴走!!
にゃんぎゃー!
村中を駆け巡る洗濯布と猫たち。
ルーク、全力疾走。
「待てーーっ!!!」
ギャリソンなら冷静に対処するかもしれないが――
ここにいるのは“ルーク”である。
勢いでなんとか全部回収。
息を切らしつつ、洗濯物を抱えた。
「……はぁ……はぁ……」
そんな兄の前で、ミーナは少し涙目。
「ごめんなさい……ミーナ、失敗した……」
ルークはふっと笑い、そっと頭を撫でる。
「いいんだ。
失敗してもいい。
……むしろ、洗濯物を追って走るミーナはすごく可愛かった」
「にぃに!!それフォローになってない!!」
でも、ミーナは笑った。
その笑顔が見られたなら、それでいい。
―――
■次のお手伝い:野菜配達ミッション
農家から村のおばさま方へ野菜を届ける係。
ミーナは手押し車をぎゅっと握る。
「これは! 絶対成功させるのです!!」
ルークは隣で歩きながら見守る。
「気をつけろよ。坂もあるし――」
「大丈夫! ミーナ、もう失敗しません!!」
その瞬間。
――猫が飛び出した。
「にゃっ!!」
ミーナ、大好きな猫を見てしまう。
「かわ……っ」
視線が猫に吸い寄せられ――
手押し車、暴走。
ゴロゴロゴロ!!
「ミーナぁぁぁぁ!!」
ルーク、今日二度目の全力疾走。
しかし――
ミーナはぐっと踏ん張った。
「止まれぇぇぇぇ!!!!!」
ぎゅっ!!!
足と腕に力を込め、どうにか止めた。
野菜、無事。
ミーナ、ぷるぷる。
「……止まった……!」
ルークはすぐに彼女の背中を支えた。
「偉いぞ、ミーナ。
今の、本当によく頑張った」
ぎゅっと抱きしめる。
(本日二度目の心臓が痛い……可愛すぎて)
ミーナは少し照れ笑い。
「ミーナ、ちょっと大人っぽかった?」
「……最高にカッコよかった」
ミーナの顔がぱぁっと輝いた。
―――
■最後の試練:一人でできるかな?
夕方。
ミーナは静かに言った。
「ねぇ、にぃに。
ミーナね、最後に“ひとりで”やってみたいの」
ルークは一瞬固まる。
(ひとり……? ミーナが? 危険だ。心配だ。いやだけど……でも……)
兄の葛藤。
しかし、ミーナの瞳はまっすぐだった。
「だってね……
ミーナ、にぃにが見守ってくれてるってわかってるから。
だから、大丈夫なの」
ルークは目を細めた。
「……行ってこい。
ちゃんと見てる」
ミーナは深く息を吸い――
村の子どもたちの面倒を見る小さなお手伝いへ。
泣く子をあやし
猫を撫でて静め
転びそうな子の手を引き
ときどき失敗もしながら
笑顔も涙も全部抱きしめて。
ルークは少し離れた場所で見つめていた。
(……本当に……大きくなったな)
―――
■そして夜
疲れ切ったミーナが、ルークの腕に倒れ込む。
「ただいま……ミーナ、がんばった……」
「……ああ。
本当に、頑張った」
ルークは優しく頭を撫でる。
「ミーナは、俺の自慢の妹だ」
ミーナはうとうとしながら微笑んだ。
「じゃあね、にぃに……
明日も、お役に立つ女の子、がんばるね」
「……ああ。
何度でも応援する。
俺は、ずっと見守ってる」
猫たちが丸くなり
夜の風が優しく吹く。
その小さな背中は――
少しずつ、少しずつ
ちゃんと前に進んでいた。
そして――
兄は今日も、世界一幸せそうな顔をしていた。




