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73.怒りの矛先

「あたしを倒せ。それ以外の縛りはねぇ。どんな力を使おうが、策を練ろうが好きにしていいぜ」

「……」


 想定していた中で最悪のパターンだ。

 戦闘だけは避けたかったのに、彼女を倒せというのは……


「やられたね」

「ああ」

「やるしかなくなったよ」

「わかってる」


 ローウェンとの短い会話で覚悟を決める。

 最悪のパターンだが、実際こうなる可能性が高いとも思っていた。

 ウルネから聞いていた彼女の性格。

 人間を嫌っているという情報があったから、こうなるんじゃないかと思っていたよ。


「おいどうした? 来ないのか?」

「――?」

「来ないならこっちからいくぜっ!」


 刹那、眼前から彼女の姿が消える。

 そして再び現れる。

 距離を大幅に詰め、俺のすぐ目の前で。

 彼女の拳が俺の顔面に振り下ろされようとしていた。

 咄嗟に身をのけぞらせて距離を稼ぎ、剣の加護で剣を生み出し防御する。


 パリンッ!

 構えた剣が粉々に砕け散り、衝撃で後ろへ吹き飛ぶ。


「ぐっ――」

「ちっ、耐えやがったか」


 吹き飛ばされ、囲われた大地の壁に衝突する。

 なんとかギリギリ防御には生成した剣は一撃で粉砕された。

 咄嗟だから強度がイマイチだったか?

 いや、仮にそうでなかったとしても耐えられなかった。

 ただの打撃でこの威力とは恐れ入る。


「ユーストス、一応忠告はしておくけど」

「大丈夫、わかってる」


 言われるまでもない。

 最初から感じていたが、やはりそうだ。

 彼女の力は……呪いの王を遥かに凌駕している。


「さっきの打撃……本気だったな」


 本気で俺を殺そうとする一撃だった。

 出し惜しみしていられる状況じゃないのは明白。

 剣の加護で作った剣じゃ強度的に耐えられないなら――


「へぇ、聖剣かよ」


 聖剣ならさっきの打撃も耐えられるし、斬り合いも出来る。

 もっとも聖剣で彼女にダメージを与えらえるかは微妙な所だ。

 呪いの王や魔物のように、魔と断じれる対象には絶大な効果を発揮する聖剣も、自然そのものから生まれた精霊には効果がない……かもしれない。

 そんなことを確かめる余裕はなさそうだ。


「様子を伺ってんのかよ。そんな余裕あると思うな!」


 凄まじい速度で迫る。

 一度は見失ったが、二度目は逃さない。

 異常な速度も目で追えないほどじゃない。

 反応も出来る。

 躱し、受け流すだけなら可能だ。


 打撃の連続を回避しながらしながら思考する。

 試練の内容と勝利条件。

 今の状況からの突破口を探る。

 

「人間にしては良く動くじゃねいーか! ならこういうのはどうだ?」

「下だよユーストス」


 マグマがうねり、逆氷柱のようにとがり俺に襲い掛かる。

 俺はそれをギリギリ身体を捻って回避した。


「っつ」

「躱すか。でも一本じゃないんだぜ?」

「ユーストス!」

「ああ」


 すでに左右、いや上下からもマグマが迫る。

 ただのマグマなら簡単だが、精霊の力で強化されているから、食らえば即終わりもあり得る。

 完全に囲まれて回避は間に合わない。

 受けるしかない。

 俺は両腕両脚を曲げ、身体を小さくまとめて防御に意識を向ける。


 展開されたのは複数の結界。

 それに加えて氷の壁を球状に貼り、マグマの威力を削ぐ。


「多重結界+アイスミラージュか。良い判断だよ」

「褒めてくれるのはありがたいんだけどさ。ローウェンは手伝ってくれないのか?」

「あの時のような助力を期待してるなら無理だよ。今はほとんど力を使い果たしている状態だからね? こうして助言するのがやっとさ」

「そう。なら仕方はないな」


 元から助けは期待してなかったけどね。

 これは俺の試練だ。

 

「おら!」


 結界が砕ける音が響く。

 彼女が結界を殴り壊し、中にいる俺めがけて迫る。

 マグマの防御に専念していた俺は、彼女の接近に気付くのが遅れた。

 すでに拳を振り上げ、初撃とほぼ同じ状況。

 またギリギリで防御したが、次に吹き飛ばされたのはマグマが煮えたぎる下だった。

 ぶつかるわけにもいかず、俺はすんでの所で体勢を変え踏みとどまる。


「っと危ないな」


 俺はすぐに追撃に備え聖剣を構える。

 しかし彼女は攻撃を止めていた。

 疑いの目で俺を見下ろしている。

 

「おいお前、どういうつもりだよ」

「どういうつもりって?」

「惚けんじゃねーよ。さっきから防御一辺倒、反撃の一つもしてこねぇ。そもそも最初から攻撃する意志が感じられねーんだよ」

「おやおや、私が指摘する前に言われてしまったね」


 ローウェンが呑気に笑う。

 さすがにバレていたか。


「あたしをおちょくってんのか? それとも逃げてるだけで勝つ作戦でもあるのかよ」

「そんなのないさ。俺は別に、貴女と戦うために来たんじゃない」

「は?」


 俺は剣を降ろす。

 敵意がないことを示す様に。


「ずっと考えてたんだ。貴女を倒せ、それが試練だと言われても、どうしてもピンとこない。本当にそれが試練なのか?」

「そう言ってるだろーが。あたしだって試練だから仕方なく戦ってやってるんだぜ」

「仕方なく? それは違うだろ」

「なんだって?」


 仕方なく戦っているだけ?

 そんなはずない。

 だって最初から……試練が始まる前から……


「仕方なくだというならどうして、貴女はそんなにも怒っているんだ?」

「――!」


 彼女は驚き目を見開く。


「貴女はずっと怒ってる。最初は俺たちに怒っているのかと思ってたけど、どうやら違う。貴女が怒っているのは俺たち人間に対してだ」

「……だったどうだっていうんだ?」

「どうもこうもないよ。試練が本当に戦いなら従う。でもその前に、どうして貴女がそんなにも怒っているのか知りたい。俺は人間だからな」

「お前……」


 馬鹿だね、君は。

 ローウェンは俺にしか聞こえない声でそう呟いた。

 言われてしまっても仕方がない。

 戦いを放棄している今の俺は、どう見たって愚かだ。

 それでも知らなくてはいけないことだと思う。

 俺は人間で、多くを託された代表みたいなものだからな。


「教えてくれ大地の精霊ノロム。その怒りの矛先を、なぜ人間に向けているんだ?」

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